
vol.373
大ヒット公開中! 映画『落語娘』
津川雅彦×ミムラ “師弟”対談
「4年前に初めてお会いした日、握手させて頂いた瞬間から大好きでした!」というミムラに「そんな顔してなかったけどなぁ(笑)」と切り返す津川雅彦。公開中の映画『落語娘』で2人が演じた直球勝負の落語娘と、一筋縄ではいかないやんちゃ師匠という“師弟コンビ”そのもの?
主人公は津川演じる落語界の異端児・三々亭平佐と、ミムラ演じる一本気な弟子・香須美。
津川雅彦(以下:津)「結果的には師匠が弟子に育てられちゃうんだけどね(笑)」
ミムラ(以下:ミ)「でも実のところ、香須美は平佐師匠に何一つかなわないんです(笑)。何しろ劇中で平佐師匠が噺を披露するのは『黄金餅』の一節と、クライマックスの『緋扇長屋』だけだというのに、どのシーンからも“この人はすごい落語家なんだな”と伝わるんですから。借金の取り立てに遭ってようが、どんちゃん騒ぎをしていようが(笑)」
―― 落語への挑戦:ミムラ
津「ミムラちゃんが『落語娘』に出る決心をするまでの心境はどうだったの?」
ミ「まず、怖かったです。落語のことをろくに知らないのに、落語の怖さを知っているという…(笑)。でも、だからこそやってみたいという気持ちもあったんです。以前『この胸いっぱいの愛を』という映画でバイオリニストの役を頂いて、至らなくて悔しい思いもしたんですが、結局やってよかったと思うことができました。バイオリンからキャラクターの構築ができたのも楽しかったし、何よりバイオリンというツールがなければ到達できない部分にも触れることができた」
津「バイオリンか…僕だったらやらないね(笑)」
ミ「落語は楽器以上に自分を使うものだし、芝居とも違うからハードルが上がるのはよく分かっていたんですけど…どこまでやったら合格なのかと考えて、そんなものはないことに気づきました。それなら、プロの落語家や落
語ファンの方から“これくらいならまあいいか”と言ってもらえるような、せめてその地点を目指してみよう、と。そう決めた後に“師匠役は津川さんです”と知らされて…もう100%決まりです(笑)」
津「バイオリンやったのは大したもんだね」
ミ「バイオリンを壊すシーンがあったんですけど、今思い出しても涙が…(笑)」
津「本当にうるんでるよ(笑)。僕はそんなに感情移入できないなあ」
ミ「実は今回、香須美が平佐師匠に破門されるシーンを撮影した日もホテルに帰って泣いてしまったんです」
津「ありゃあ、そうだったの(笑)。そうと知ったらホテルへ行って慰めてあげたかったな(笑)」
―― 落語への挑戦:津川雅彦
ミ「当初からどなたが平佐師匠を演じるのか、同じ役者としてどう落語に触れるのか、とても気になっていたんですが…津川さんは本当にすごかった! とくに『緋扇長屋』にどう挑んだのかをうかがってみたくて」
津「あの高座のシーンは思い出しただけでも辛いよ」
ミ「津川さんでもそうだったんですか…。それをあんなに見事に」
津「伝統芸能は何百年もかけて、秘伝が伝わっていく。僕の場合は、撮影まで2カ月、秘伝も伝授されない。ちょっと小噺やるのも大変なのに、高座に上がって噺をまるごとやるなんて、歌舞伎座の舞台に上がって歌舞伎をやるのも同じような無茶だよ。家訓で伝統芸能家はやっちゃいかん、と言われてるって断った(笑)。ちょうどその夜『ロッキー・ザ・ファイナル』を見て、泣いちゃってね(笑)。これは“津川・ザ・ファイナル”をやれ、ということかな、と思っちゃった(笑)。映画ってそんな力があるんだ」
ミ「『ロッキー――』を見てくださって、本当によかった(笑)」
津「毎日、噺を練習したよ。質を追求しても追いつかないんだから、とにかく量で励もうと。他の事を考えてても軽く口から出るようになるまで、とにかく何百回と繰る。これまで役者をやってきた経験値で、本番になれば“質”はつくろえるだろうが、量の未熟だけは避けたかった。しかし量をやるのは、肉体訓練だからつらい(笑)」
ミ「つらいですね。香須美は何千回もやっているはずの噺を、私が一部分だけやるわけにはいかないと、撮るたびに噺を丸ごとしゃべっていたんです。そうしたらしゃべりすぎて顔の輪郭は変わるし、絶えず口内炎ができるし(笑)」
津「まあ、どんな役者も伝統芸能だけは一筋縄ではいかないね」
――互いに認め合う“師匠と弟子 ”
ミ「津川さんが演じる平佐師匠は、すべてがカッコよくてすべてがかわいい。中原俊監督に“かわいらしさで平左師匠に負けないように”って言われていたのに、完敗だと思いました(笑)。ただ1つ、普段は軽妙な師匠がふっと色っぽくなるシーンがあるんです。階段に立てひざをついて煙草をくゆらせる場面が。私、あまりのカッコよさにゾクっとしてしまって(笑)」
津「うれしいね(笑)。ミムラちゃんはね、役者として背筋がぴんと立っているのが素晴らしいよ。いま24歳? ソラ怖ろしいね(笑)。僕が24歳のときなんてめちゃくちゃ無精だったよ。セリフはギリギリまで覚えないわ、生意気ばかり言うわ…」
ミ「いま同じような若手が目の前に現れたら、叱りますか(笑)?」
津「蹴っ飛ばしてるよ(笑)」
ミ「そんなことをおっしゃりながらも津川さんの素晴らしいところは、ああしろこうしろと敢えて口にせずとも普段の会話のなかに教訓や教えになることがふんだんにあって、それをいくらでも拾わせてくださる。目の覚める思いをしたことが何度もあります」
津「君はおりこうさんだよね(笑)。僕は何も考えずしゃべっているだけなんだよ、それも阿呆なことをさ。その中から自分のためになることを読みとるなんて24歳とは思えないね。本当に人のことをよく観察してるね。僕のことを書いているコメントを読んだけど“第三者の目で自分を見て芝居してらっしゃる”とか、確かに第三者の目を持ちたいとは思ってるけどさ(笑)」
ミ「ただ、現場で津川さんと中原監督のお話をじっと聞いているのが楽しくて。“俳優と監督”として話し合われているときと“監督と監督”として話されているときの、津川さんの視点がまったく違うんですもの」
津「ふーん、こうやって人を分析してるんだな、24歳でさ。まさに香須美だ(笑)。実は、そういう好奇心は役者にとって大切なことなんだよ。芝居ってのは他人を演じることだからね、自分にしか興味がない役者はうまくならない」
ミ「バイオリンや落語という素材だけじゃなく他の役者さんとの共演も、自分だけでは到達しないところに触れる機会を与えてくれるものだと思うんです。それも、ここまで経験豊かな先輩と、こんな近しい距離で芝居させていただく経験なんてなかなかあるものではありません。本当にありがとうございました」
津「いやいや僕だって、ミムラちゃんの胸をワシづかみにして、久しぶりで若さを取り戻させて頂きました(笑)」
この“師弟愛”が奏でるオツな落語エンターテインメント。“粋”と“意気”を忘れた平成日本人に効く一本だ。
(本紙・秋吉布由子)