
vol.378
『真木栗ノ穴』 主演
西島秀俊
売れない作家がのぞいた壁の穴から、不思議な物語が紡がれる。すべては現実か、それともまやかしなのか――。この秋おすすめの注目作『真木栗ノ穴』で、主人公・真木栗勉を演じた俳優・西島秀俊が、見る者を“妖し”の世界にいざなう――。
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スタイリング・藤井牧子/ヘアメイク・大橋覚 (VANESSA+embrasse)
撮影・加藤大毅 |
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西島秀俊には、個性的な作品がよく似合う。この秋の新作もまた、どこか妖しい魅力を持った不思議な物語だ。
「この真木栗勉という主人公は作家なんですけど、作品に行き詰っていたところ、ある日何気なく壁の穴から隣りの部屋をのぞくんですね。そこから見えた光景を材料に作品を書くようになるんですが、そうやってのぞいているうちに現実と非現実があやふやな世界に踏み込んでしまうんです」
仕事のないところに舞い込んだ、官能小説の執筆依頼。頭を抱える真木栗が、ふと目を留めたのは、隣室がのぞける壁の穴だった。初めは単なる好奇心が、不思議と真木栗の創作意欲をかき立て、いつしかそうせずには小説が書けなくなっていく。
「どちらかというと最低な男かもしれません、のぞき見したりしますしね(笑)。僕はよく犯罪者の役などもするんですけど、そういう人物はベクトルの方向が他の人と違うだけ、という場合が多いのですが、この人の場合はベクトルそのものが短いというか…本当にいいところがない人(笑)。共演者にも、ああいう人は嫌だ、って言われてましたよ。急に怒ったり八つ当たりしたりああいう人は嫌ですって(笑)」
多くの撮影現場を踏んできた西島だが、本作の撮影は、ハードな面も。
「実は、すごく現場がきつかったんです。監督の深川栄洋さんは、すべてを完璧に構築できる方なので、作品を見ていただければ分かると思うんですけど、どんな細かいところも計算されて作られているんです。だから僕ら役者は、監督の演出そのままに動く必要があった。例えば僕がちょっとあいまいな方向に演じようとすると、ストップがかかる。つまり今回は、深川監督の世界のなかに、きっちりはめ込まれていったという感じでしょうか。もし僕があいまいな部分を見せながら演じていたとしたら、作品に違和感が出てしまったでしょうね。完成作を見て、やっぱり監督の演出は完璧に計算されていたんだな、と思いましたよ。普段は、ほわっとした方なんですよ(笑)。でも前作の『狼少女』もそうでしたけど、カチッと世界観を構築する方なので、ほわっとしているように見えて、実際はかなり芯が強い方ですね」
その深川監督のこだわりの1つが、この物語の核となる真木栗勉の部屋だ。木造建築の古アパートの一室。小さな机、布団、無造作に積まれた本の山。そして隣りの部屋には独り者の男。反対側には訳ありの美女。それぞれの壁には小さな穴――。
「この映画に関しては“場所”の影響は大きかった。演技もすごく助けられましたよ。特に真木栗の部屋。撮影初日にあの部屋に入った瞬間“おお、こういう部屋あるよね”とリアルに感じました。部屋中、本当に細かく作られていましたから。まあ、その外観からしてイメージには完璧でしたからね。実際の古アパートを使って撮影していたので、とても狭くて、撮影のために部屋の壁を動かせるようにしてあったんです。もしかしたら、ちょっとズルをして本を少なくしたり軽くしたりする現場もあるかもしれません(笑)。でもこの現場は全部本物。だからカットごとにあの本をいちいち動かさなきゃいけなかったんです。ものすごい労力をかけて作られた現場なんですよ」
穴をのぞき、筆を走らせるたびに、奇妙な出来事が起こるようになる。しだいに、現実と非現実が交錯し始める。
「僕がイメージしているよりもはるかに幻想的な世界になっていたので、驚きました。深川監督の力だと思います。劇中に出てくる、鎌倉の切り通しがまた、雰囲気があるんですよ。あの世とこの世の境目、というイメージにぴったりで」
共演者も個性派が揃う。
「皆さん素敵だったんですけど、中でも詐欺師の女を演じたキムラ緑子さんが本当にインパクトがありました。実は他の現場でも言われたんですよ。“西島さん、キムラさんと一緒にお風呂に入ったんだって?”って(笑)」
劇中、キムラ演じる詐欺師の女と、なぜか混浴するという衝撃?場面も。
「いや、おかしかったですよ、本当に狭いお風呂で。なぜだか2人ともすごく緊張しちゃって。インパクトというと、あのシーンは本当にインパクトが大きかった(笑)」
真木栗の大きな関心は、隣りに越してきた美女。彼女の部屋をのぞいては、紡がれる官能の物語。その結末とは――。
「僕は、この映画は最終的にはラブストーリーだと思っているんです。真木栗は本当にダメな男なんですよ…ダメな人でも突き抜ければどうにかなることもあるけど、この人の場合どこまで行ってもダメな感じで(笑)。でもそんな男が最後には愛のためにある選択をする…。僕はそう思うんですよね」
西島本人に“ダメ”な部分は。
「いっぱいありますよ(笑)。あまり何もできないし、部屋も散らかってるし。本当に今は散らかってますね、仕事であまり家に帰れなくて。DVDや本だらけで、倉庫みたいになってますよ」
この秋、西島が離島の裁判官を演じて話題となったドラマ『ジャッジ』の続編も放送されるので、本作の主人公との違いを楽しむのもよさそうだ。
「『真木栗ノ穴』は、最初に笑って見ていると、すごく怪しい怖い世界に連れていかれて、最後には感動する…という、とても良くできた映画なので、楽しんでもらえると思います。不思議な僕の入浴シーンもありますし(笑)」
(本紙・秋吉布由子)