
vol.378
the company world premiere『1945』(世田谷パブリックシアター 10月25日〜11月3日)
ロバート・アラン・ア ッカーマン
ニューヨーク、ロンドン、そして東京と世界を舞台に活躍する演出家、ロバート・アラン・アッカーマンが設立した、東京を拠点とする演劇集団「the company」が今秋本格始動する。芥川龍之介の『藪の中』を原作とする『1945』でアッカーマンは初めて日本を舞台とした作品を手掛ける。そしてそれは「世界初 演」という肩書きがつく貴重な作品となった。
芥川龍之介『藪の中』をヒントに終戦直後の日本を描く
 |
撮影・加藤大毅 |
「日本で演出をするようになって20年。そろそろ日本を舞台にした戯曲をやる時期ではないかという機運が高まってきたとき、頭で考える前に、思わず口からこの作品の構想が飛び出しました。最初は映画(黒澤明監督の羅生門)のイメージがあって、それを終戦直後の東京に置き換えれば、ハリウッドのフィルムノワール的な手法で物語を伝えることができるので、自分にも演出することができるのではないかと思いました。内容に関してはイラク戦争が発端でした。イラク戦争に関してはアメリカではまさに『羅生門状態』という表現があるんです。観点によって物語が変わってきてしまうという、まさに羅生門の状況を英語ではそのまま『羅生門状態』っていうんです。イラク戦争はその根拠として、大量破壊兵器が隠されているだとか、アルカイダがイラクにひそんでいるとか、さまざまな情報があったけれども、実際にそれはひとつも真実ではなかった。調べていくと戦争はみんなそう。世界中が巻き込まれていく戦争は今までにもあったが、大小に関わらず、どちらの側の話を聞くかによって全然違う意見や根拠があったわけで、だからこそ戦争が生まれるのであって、そういうことを描くのにもこの題材が適していると思いました」
もともとアッカーマンの作品は社会的メッセージを多く含むものが多い。かといって今回は短絡的に反戦をうたっているわけではないようだ。
「私がむしろ一番描きたいのは『真実対嘘』の対立。先ほどいった、観点によってすべて意見や根拠が違うというのは、嘘につながっていく。その嘘というのがいかに人間をあらゆる次元で、ゆがませていくか。戦争における嘘というのは最上層である国の指導者たちが仕組んだ嘘。だけどもそれは最上層だけに留まらず、社会の仕組みの末端の国民ひとりひとりにまで影響を与えてしまう。つまりその嘘を許すことによって社会全体が墓穴を掘っている、ということを伝えたかった」
作品では終戦直後の闇市で起こった殺人事件をめぐり、まさに「羅生門状態」で話は進む。食い違う証言と人々の心の中の叫びが闇の中で錯綜する。
「それぞれの人物が“自分のなかにこの事件が起きる責任があった、自分の責任であった”ということを感じているから『自分がやった』という言葉になったのだということが、多分原作よりずっと伝わるようにはできていると思います」
ここで話はふとしたきっかけからアッカーマンから見た日本についてと大きく転換。
「今の日本の社会のひとつの傾向だと言ったほうがいいんじゃないかと思うんですが、どうも日本の社会で起きていることに対して見ているようで、見ようとしない部分が全員に共通の暗黙の了解のようにあるような気がするんですよ。この作品のリサーチのために『はだしのゲン』を読んだほうがいいと言われ、全6巻のうち4巻の終わりくらいまで読んだんです。さぞかし原爆の話だから反米のものかと思って読み始めたら、凄い反日というか、日本の政府や軍部に対する批判が物凄く書かれている。でも、『そういう内容なんだね』ってみんなに言っても『はだしのゲンってそうだっけ』って反応なんですよ。社会を見つめるときに、なにか盲点というか、見ないでおこうとしているポイントというのが多分日本にはあるような気がします。『エンジェルス・イン・アメリカ』のときは“エイズは日本にないからね”とまで言われました」
『エンジェルス・イン・アメリカ』しかり、アッカーマンの視線は常に外に、作品は常に社会に問いかける。「現実を受け止めろ」「気がつけよ、おまえたち」。
「演劇のそして芸術家の使命として、社会によって与えられた影響を社会に還元するというのは必要だと思うんですよ。この戯曲でもそれはあります。先ほど反戦の話が出ましたが、とても深い意味で反戦のメッセージは含まれているのかもしれません。何かを観客に持ち帰ってほしいという願いがあってやるわけですが、そのひとつに、1945年に起こったことと現代に起こったことの関連性、そこに相似形が見えるってことを感じてほしいんです。過去に起きたことを認識することでしか、前に進めない。当時民衆が嘘をつかれていた。嘘を嘘と認識し、自分の人生においてもなにが嘘でなにが真実かということに、ちゃんと自分も向き合いながら生きていくということをすることで、国家レベルの嘘を見抜くことができるようになれば、もしかしたらこんな戦争がもう二度と起きない社会が作れるんじゃないかと思うんです」
『1945』はあらゆる局面で観客それぞれが自分でジャッジをしなければいけない作品。それは自分の思想や立場が透けて見える。そういう意味では怖い、覚悟のいる作品だ…と思いきや。
「実は私はそうは思わないんですよ。昔の映画とかで使われているロマンティックスリラーという表現があって、ちょっとラブストーリーの面もあり、サスペンスの面もある。音楽もジャズだし、1945は単純にそういう作品としても楽しめるものではあるんですよ。ただ、劇場を後にしたときに、議論じゃないですけど感想を言い合わなければ気がすまない作品になるといいな、そしてもう一度見たいなと思う作品になるんじゃないかなとは思っています」
(本紙・本吉英人)
the company world premiere『1945』【日時】10月25日(土)〜11月3日(月・祝)(開演は19時30分。日・祝14時。1日(土)は14時/19時、29日(水)は14時の回あり。27日(月)は休演日。開場は開演30分前。当日券は開演1時間前より発売)【会場】世田谷パブリックシアター(三軒茶屋)【料金】全席指定 S席(1階&2階最前列)7000円/A席(2階2・3列)6000円/B席(3階)5000円【問い合わせ】ゴーチ・ブラザーズ(TEL 03-5465-1656=平日11〜19時 〔HP〕http://www.gorch-brothers.jp/)【原作】芥川龍之介「藪の中」【脚本・演出】ロバート・アラン・アッカーマン【台本協力】青木豪【出演】中村ゆり、山本亨、パク・ソヒ、瀬川亮、松浦佐知子、高橋和也、有希九美、深貝大輔、斉藤直樹、矢内文章、宮光真理子、倉本朋幸、呂美 ほか
|