映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』インタビュー
『Love Letter』の岩井俊二が手掛けた1993年の実写ドラマを、脚本・大根仁、総監督・新房昭之でアニメ化した、この夏話題の映画がいよいよ公開。2人の男子が思いを寄せるヒロインなずなの声を演じるのは、『チア☆ダン〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜』や『先生!』(10月28日公開)など、注目作への出演が続く広瀬すず。大ヒット映画『バケモノの子』に続き2度目となる声の演技に挑み、さらなるやりがいを感じた様子。さらに今回は“実は苦手”という、あるコトにも初挑戦!
撮影・辰根東醐 ヘアメイク・宮本愛 スタイリスト・安藤真由美(スーパーコンチネンタル)
最新作は“あのころの夏”がギュッとつまったアニメーション
8月に入って夏真っ盛りの日本列島。猛暑が続けば、もはや暑さを楽しむしかない! 話題の出演作がひっきりなしに続く女優・広瀬すずの場合は、夏をどう楽しみたいかというと…?
「かき氷を食べに行く(笑)! かき氷、好きなんです。ビジュアルも夏っぽくてかわいいし、おいしそうなかき氷が雑誌とかで紹介されていると、つい見ちゃいます。天然氷のかき氷とか、あちこちの人気店のかき氷めぐりをしてみたいです」
夏といえば、夏休みシーズンは注目映画の公開もお楽しみ。広瀬の最新作は、そんな“夏ならでは”のときめきがギュッと詰まったアニメーション映画だ。2015年に公開された細田守監督作『バケモノの子』に続いて2回目の声の芝居となる。
「初めて声のお芝居をさせていただいた『バケモノの子』のときは、まったくゼロからの…というか、むしろマイナスからのスタートで(笑)、アフレコ現場での台本の読み方すら分かっていなかったんですが、そのときに比べれば多少は読めるようになったと思いますし、心の余裕も生まれたかな、と。ただ今回私が演じた“なずな”はとても難しい役柄でもあったので、自分なりにいろいろ考えながら演じていきました」
本作は『Love Letter』『リップヴァンウィンクルの花嫁』など国内外にファンを持つ岩井俊二監督が1993年に手掛けたテレビドラマを『モテキ』『バクマン。』の大根仁による脚本で『化物語』『魔法少女まどか☆マギカ』の新房昭之が総監督を務めアニメ化したという注目作。
「実写と比べると、声の芝居では強弱をはっきりさせるというイメージがあったんですけど、今回はそこまでアニメであることを意識しなくてもいいのかなと思いました。元になっている実写ドラマが素晴らしいので、そこを生かすことができたらいいな、と。どこか懐かしくて、見ていてにおいを感じるような映像だったので、それがすごく素敵だなと思いました。原作ドラマを見た人が感じたにおいのようなものを、この作品からも感じてもらえたら、うれしいなと思ったんです。なので今回は、どこまでアニメーションらしく、どこまで実写のように演じるか、自分なりにけっこう考えながら、なずなを演じていきました」
広瀬すずの“小悪魔ボイス”に恋しそう! 声だけの表現に手ごたえ
夏休みのとある1日。その日の夜に行われる花火大会の話でクラスメイトが盛り上がる中、典道は密かに思いを寄せていた少女なずなから“かけおち”に誘われる。なずなは、母の再婚のために転校することになったという。しかし結局、なずなは母親に連れ戻されてしまう。“もしも、あのとき…”。典道がそう思った時、ある時点まで時間が巻き戻されていた。何度も同じ1日を繰り返す典道となずな。打ち上げ花火があがるとき、2人がたどり着く運命とは…。
多感な時期の少女特有の無邪気さ、一途さ、そして小悪魔っぽさを、声の表現で見事に演じた広瀬。
「なずなって時々、しぐさとかセリフとか色っぽいんですよね(笑)。あの年ごろの少女が言うから色っぽく感じる、というのもあると思うんですけど。なずなは、常に背伸びをしていて、そんな自分に慣れてしまった子。それが、なずなの切ないところでもあるんですけどね。お芝居では、声のトーンを抑えめにしつつ、でも完全に抑えてしまうと大人っぽくなりすぎるので、少女らしさを失わないよう意識しました。例えば“か・け・お・ち”というセリフだと、最後の“ち”は跳ねるような感じで、と監督からも言われました。まだ少女なんだけど背伸びをしている感じを声だけで演じるのは、すごく難しかったです。実写での演技なら、しぐさや表情で静と動をはっきりさせることができるし、自分で演じていても分かりやすいんですけど、声だけでとなるとやはり難しいものだなと、改めて思いました。ただ、今回は同世代で等身大の役だったので、自分とまったく違う人格を意識したり、声をすごく変えて演じるということはなかったです。もともと私は、声や話し方が子供っぽいというか大人びているほうではなくて、自分でもときどき“なんだ、このしゃべり方”と思うことがあるんですけど(笑)、今回は年齢的にも近くて、合っていたのかなと」
撮影・辰根東醐
やはり声だけでの表現は難しい?
「難しいです。尺に合わせてセリフを言うだけでも大変です。話すのが1秒遅れただけでも尺に合わなくなるので、自分がセリフを言うタイミングが来るまでずっとドキドキしています。“もう少しで来る…!”って(笑)。でもそのハラハラ感は嫌いじゃないし、リズムに乗ってお芝居ができるようになると癖になるくらい楽しいです。『バケモノの子』のときも大変だったけど楽しくて、絶対にまたやってみたいと思いました。特に今回は与えられた秒数の中で、こういう言い回しもありかな、と自分なりに考える余裕もできたので、より楽しさを実感できました。『バケモノの子』のときは声優の方のすごさに圧倒されるばかりでした。例えばチコ役の諸星すみれさんなんて、セリフが鳴き声だけなんですよ。台本は手にしているけどほとんど目を落とさず、映像を見ながらその時の状況に合わせた声のお芝居をしていく姿が、私には衝撃的でした。やっぱり、台本に書いてある以上のことを映像から感じて、お芝居をしないといけないんですね。今回は私も映像を見ながら、このセリフがどういう状況で出てきたものなのか、前回よりは考えることができるようになりました。特に動きのあるシーンなどでは同じような動作を少しやってみたんですけど確かに、この状況ならこう言いたくなるなとか、なずなの気持ちをつかみながら演じることができたと思います」
典道少年の“男子目線”から見る、なずなのミステリアスな魅力も、軽やかに表現した広瀬。
「なずなは、遊べるというか工夫しながらできる役で、それがとても面白かったです。セリフも、これは相手に言っているのか自分自身に言っているのか、わざと言っているのか天然なのか…。一つの言葉に込められた気持ちがいくつもあって、その言葉にたどり着いた理由も何通りも考えられる。本当はどんな女の子なんだろう、と見ている皆さんも思うんじゃないかなと私も思いながら演じていました」
相手役は声優初挑戦の菅田将暉。広瀬も苦手なあるコトを初披露!
そんな“小悪魔”に翻弄されつつ引き付けられる少年・典道を演じたのは、今回が声優初挑戦となる菅田将暉。
「菅田さんは、やっぱり天才肌の方なんだなと思いました。最初の収録が、祐介役の宮野真守さんと3人一緒のシーンだったんですけど、2人とも、どんな指示をされても次のテイクで完璧にその通りにできるんです。菅田さんなんて、声のお仕事が初めてとはとても思えなくて、私は2回目だというのに2人に置いて行かれる!と焦っていました。あと、菅田さんもやっぱりすごく楽しかったみたいで“やばい! 楽しい!”ってずっとおっしゃっていました(笑)。声のお仕事第1日目で楽しいと感じられるなんて、すごいと思いましたね。私なんて初日は泣きそうでしたから。帰りの車では、もうぐったりしていました(笑)。そう思うと、やっぱり菅田さんはすごいです」
なずなと典道の“冒険”を、菅田と息のあった芝居で生き生きと表現。
「2人のシーンはほとんど現場で一緒に撮ることができたので、それがすごく良かったと思います。何度も1日を繰り返しながら、どんどん典道くんと心を通わせていく様子は、きっと一人で収録していたら、ああはできなかったと思います。収録中、向き合ってお芝居をしているわけではないけど、隣りを見れば“典道くんがいる”と思えて、本当に典道くんと話している気持ちでできたので、一緒に録れて本当に良かったと思いました」
ちなみに普段の菅田の印象は?
「服がオシャレ! 私はあまり趣味といえるものが無いんですけど、唯一ファッションが大好きで。菅田さんてやっぱりおしゃれなので、私服ってどんな感じなのかなと、ずっと注目していました(笑)」
今回、広瀬もとあることに初挑戦。実は劇中で松田聖子の名曲『瑠璃色の地球』をカバーしているのだ。
「実はもともと歌は得意なほうではなくて、歌うシーンがあると聞いたときは“マジか〜!”という感じでした(笑)。マネジャーさんにも3回くらい確認しました。本当に歌うんだと分かってからは、もう毎日カラオケですよね(笑)。オリジナルは、声も歌い方も、聞いた人が思わず引き付けられる独特の魅力があるので、なずなとしてそれを再現するのは本当に難しくて。これでは人前ではとてもじゃないけど歌えないと思い、最初は母と一緒にカラオケに行って歌ってみたんです。母に、よくこの歌知ってたねと言われて、これを歌うんだよと返したら“えーっ!”って(笑)。本当にリズム感も難しかったですし、なずなとして歌う余裕もあまり無くて。レコーディングのときは、とにかく歌うことに集中していました。どんなことになってるのか怖いです。見た人にも歌の部分にはあまり触れないでほしい…(笑)」
広瀬本人はそう言うが、みずみずしく透明感ある歌声は必聴!
同年代はもちろん、大人たちも少年少女時代の甘酸っぱい切なさを思い出す、大切な夏の思い出になりそうな一本。広瀬すずをはじめとする人気俳優陣の、実写とはまた違う表現力にも注目だ。
(本紙・秋吉布由子)