国際連携と情報共有がテロから国と命を守る
世界がテロの脅威にさらされている今、テロを未然に防ぐには何が必要か。自由民主党 治安・テロ対策調査会副会長の中山泰秀衆議院議員と作家で評論家の元航空自衛官・潮匡人氏に話を聞く。
身近にあるテロ
潮「昨年はパリのテロで始まり、パリのテロで終わった。そして最近ではベルギーと相次いでテロが起こっている。これはISIL、いわゆるイスラム国による犯行だと、彼ら自身の声明でも明らかにされています。このように先進国においても悲劇が繰り返されることは悲しいかな現実です。ですから私たちは、ひとつひとつきちんと情報を収集して、事実を踏まえた上で冷静な判断をすることが、大切だと考えます」
中山「もはや現代の戦は、1国のみで防衛にしろ攻撃にしろ解決できる時代ではないという事を、その変化をしっかり理解しておかなければなりません。従ってテロ対策における同盟国間での情報共有は、必要不可欠といえます。ヨーロッパでもそれぞれの国が得た情報を、EUとしてしっかり共有できていたとすれば、パリやベルギーのテロ被害を未然に防げる可能性があった事は否めません。他方で連携しにくい理由のひとつとして、インテリジェンスの特性上、その国固有の過去に培ってきた伝統やノウハウ、人員、予算、情報取集、分析、管理等が動いているので、例えバイであろうがマルチであろうが、苦労して集めた情報を、そうやすやすと出したがらない、という観点からも共有するのが難しい。政府のテロに対する取り組みとして、外務省に国際テロ情報収集ユニットを創設しています。法治国家である日本が、法を無視して攻撃を仕掛けてくる者に対して、法律のありようも含めて、万全な体制を整備構築していく事が急務と考えています」
潮「いわゆるソフトターゲットが狙われるというのが、ISIL の犯行のトレンドになってきている。これらのテロに対して、それを100%未然に防止するということは、いかに安倍政権が最大限適切な努力を払おうが、過大な期待を持つべきじゃない。100%の安全は、残念ながら私たちが生きているこの社会では願ってもかなわないことだと思います」
中山「かつての戦争は、国家 vs. 国家の戦い。これからの戦争は、1人 vs. 国家の戦い。現代の戦は技術の進歩によって、距離、時間等の概念がなくなってきています。一度テロリストがインターネット技術を使えば、クリックした瞬間に戦場の血生臭さを茶の間に届ける事ができる時代。ISIL が具現化させた恐怖のシナリオは、テロリズムとハイテクを掛け合わせ、世界中の人々を恐怖のどん底に陥れたこと。さらにインターネットを通じ巧みに、兵士の勧誘までしている。私たちが新たな時代の変化に直面しているという現実を理解し、意識改革する事が必要だと思います」
2020年に向けて
5月に伊勢志摩サミットが行われ、2019年はラグビーのワールドカップ、そして2020年には東京オリンピック・パラリンピックも開催。日本で国際的な行事やイベントが続く。
中山「地政学、地球を俯瞰する外交はとても重要です。ベルリンの壁は崩壊しましたが、朝鮮半島における38度線をにらんだ情勢に変化はありません。国と国の戦いを考えた場合、仮に北朝鮮からミサイルが飛んできたら10分以内に、日本国内すべての地域に着弾します。他方でテロとの戦いの場合、テロは単発で終わると考えている人が多いと思いますが、ISILは“テロ”ではなく、私たちに“戦争”を挑んでいる認識です。攻撃側と受ける側との認識にずれがある。これからの時代の戦争は、戦争らしくない戦争のスタイルで展開されていきます。いかなる形の暴力であれ、戦争は戦争という事実を解釈して、理解し、現実を直視した対応が必要です。自分たちの国をどうやって守るのかを、国民全体で真剣に考えていかなければなりません」
潮「私たち国民が決してテロを他人事だと思ってはいけない。かつてロンドンでサミットが行われたときも、公共交通機関が狙われて実際に犠牲者が出た。しかしそれを教訓にすべての都内の駅やバスに警護体制を敷くのは無理です。しかし、例えば、抜き打ち的に特定のスポットで、そうした手荷物検査を行うということを考えてもいいかと思います。新幹線などについても、毎回すべてのものにやらずとも、抜き打ち的にやるだけで、抑止的な効果は上がるでしょう。そういう時に利用者である我々は、不便だと感じるかも知れませんが、自由や人権を守るためには、避けられないことなんだと、一人一人が認識を改めていかないといけないと思いますね」