【インタビュー】「艶∞ポリス」主宰・岸本鮎佳 今、小劇場界を席巻するユニット
「ファッショナブル」とか「都会的な」といった形容詞がつくと「はあ?」という反応をする人も多いだろうが、実際そうなんだからしようがない場合もままある。それが「艶∞ポリス」。今、小劇場界を席巻するユニットだ。その作品を紹介するときによく言われるのが「都会的な笑い」という単語だというのは主宰で作・演出、そして俳優としても舞台に立つ岸本鮎佳。
9月7日から下北沢の駅前劇場で新作『ハッピーママ、現る。』上演開始
「女のギスギスした会話劇を笑いに変えているんですが、重くないというか、嫌な感じがしなくて、結構カラッとしているのでそういうふうにとらえられているのかな、とは思います。お笑い(の本場)って関西じゃないですか。でも私はどちらかというと東京の芸人さんが好きで、種類的にはちょっとシュールな感じが面白いなって思っているので、面白いものを考えるとなったときに、ベタなほうじゃなくてそういう方向のものになるんだと思います」という。
艶∞ポリスの作品は同時多発的に物事が進行し、いわゆる“じわる”笑いと突き抜ける笑いが絶妙なバランスとタイミングで襲ってくる。高飛車な女、無理に頑張っちゃう女…などなど女の描写がいちいち面白く、ついついそちらに目が行きがちなのだが、それだけではもちろんない。
「女の人を書くにしても、結局男の人がいないと女だけでやっても面白くないなっていう感覚はあるんです。男の人によって女の人があぶりだされるような感じ。恋愛とか痴情のもつれといったことが一番分かりやすいし面白いと思っているんですが、男の人が面白くないと女も面白くない。だから結局、男の人も面白く描かなきゃいけないということは心掛けています」
というように細かいところまで気配りの行き届いた考え抜かれた構成の作品という印象だ。
動物電気を初めて見たときに衝撃を受ける
ちなみにこの岸本、もともと演劇とは無縁の人だった。
「高校生のころから事務所に入ってこういう仕事を始めました。もともと役者をやりたかったんですが、それは映像のほう。だから舞台をやりたいと思ったことはあまりなかったんです。仕事もないし、オーディションもないし、という感じで事務所を転々としているうちに結局行きついたのが小劇場でした。最初は小劇場のことはバカにしていたんです(笑)。面白いものをあまり見たことがなかったし、割と最近まで下北沢でお芝居を見たこともなかったんです。でも動物電気という劇団を初めて見たときに結構、衝撃を受けました。お客さんも満杯だし、熱かった。そこから、“意外と小劇場って面白いのかな”と思って、オーディションを受けて小劇場の芝居に出るようになったんです。だから最初はずっと役者としてやっていました」
“2人芝居やらない?”って私から声をかけた
なぜユニットを作り、作・演出まで自分でやろうと?
「オーディションを受けているときに、今、艶ポリスで一緒にやっている井上晴賀と外部の公演で共演したんです。その時はあまりからみはなかったんですが、“この子面白いのに全然生かされていないな”って思って、“2人芝居やらない?”って私から声をかけたんです。私は書いたこともなかったし、そんなつもりも全くなかったんですけど、2人芝居のイベントに出ることになった時に“じゃあ私、ちょっと書いてみるね”ってことになって書いてみたのが最初。それがすごく好評だったんです。それで“次もやりなよ”と結構言われて、そこから徐々にやるようになって、1年くらい経ったところで、“じゃあ団体としてやる?”って立ち上げたのが2013年」
真っ先に気になるのがこの名前。
「団体名を考えようとなった時に女2人で始めるということもあって、名前を見ただけで女性がやっているということが分かるもので、短くて覚えやすいものにしようということになりました。それで、2人で話しているときに、日活ロマンポルノのウィキペディアを見ていたんですがタイトルがとにかく面白かったんです。ホントに意味が分からない (笑)。でもなにかを想像させる感じ。このテイストは結構使えるかもしれないということで、ちょっと組み合わせてみたんです。“艶めく〇〇”という題名と“〇〇ポリス”というのがあって。艶という漢字もいい感じだったし、ポリスというのも良かった。∞のマークは特に意味はないんですが、ちょっと手錠っぽいし、パッと見たときにこれが入っていると結構ビジュアルで頭に残るかなっていうことも考えて『艶∞ポリス』にしました」
現在、駅前劇場ではほぼ満員のお客さんを集めるようになった。
「そんなことないですよ。必死です (笑)。でも口コミなんかで後半になるにしたがってお客さんが増えてきている実感はあります」
まずは早くザ・スズナリで公演をしたい
今後についてはどういった青写真を?
「今は脚本を書くということについてはあまり自信がないんです。まだ自分が書きたいものなどを100%出せているかといったら、いつもちょっと心残りがある。だからもっと伸びるなって思っているのが脚本とか演出。艶∞ポリスでは自分が書いたものに自分で出ているわけですが、まずそこで認めてもらってから役者として外部に呼んでもらって活躍していけたら一番いいかなって思っています。私はコネもないし、演劇もよく知らない状態で始めたので、最近やっとだんだん横のつながりが増えてきて、なんとなく仕組みとかも分かってきたところなんです。それまでは何にもない状態から始めているので、“この作品に出たい”と思っても、どうやれば出られるのかも分からない。フリーでもあるので、一番手っ取り早いのが自分の作品を見てもらって認められることなんじゃないかと思っているので、今は艶∞ポリスでいい脚本を書きつつ、そこを極められたらいいかなって思っています。艶∞ポリスというユニットについては、まずは早くザ・スズナリで公演をしたいと思っています。私の作品は同時多発的に物事が展開するんですが、駅前劇場だとお客さんの目の動きが左右の動きになっちゃうじゃないですか。だからアンケートでも“こっちの会話がもっと聞きたかった”といったことはよく書かれるんです。だから使い方が難しい。その点、スズナリだったらそういう同時進行がすんなり受け入れられやすい。例えば2階建てのセットができるとしたら、上下でそれができて見やすいと思うんです。そしてスズナリはつぶやく声でも客席の後ろまで通るじゃないですか。本当はそれくらいのトーンでやりたいんですが、駅前では声が通らないので役者さんには声を張ってもらっているんです」
9月7日から下北沢の駅前劇場で新作『ハッピーママ、現る。』が上演される。今回はPTAでのママさんたちを題材とした喜劇。そろそろ「評判を聞いてから」なんて呑気に構えていたら見られなくなる可能性もあるから要注意だ。
【日時】9月7日(木)~11日(月)(開演は木19時30分、金14時30分/19時30分、土~月13時30分/18時30分。開場は開演30分前。当日券は開演45分前)
【会場】駅前劇場(下北沢)
【料金】前売3500円、当日3800円/艶∞割(特典付)3000円(1980年4月28日~1984年3月22日生まれの女性限定)
【問い合わせ】艶∞ポリス(TEL:090-6000-3959=アイザワ [HP]http://tsuyapolice.com/)
【作・演出】岸本鮎佳
【出演】木戸雅美、岸本鮎佳(以上、艶∞ポリス)/異儀田夏葉(KAKUTA)、小野川晶(虚構の劇団)、関絵里子、藤村聖子(劇団 藤村聖子)、武藤晃子、北川竜二、鶴町憲、谷戸亮太、富川一人(はえぎわ)