石井光太『飢餓浄土』
2005年に大宅壮一ノンフィクション賞候補作となった『物乞う仏陀』を発表した石井光太は、現在もっとも注目を集めるノンフィクション作家といってもさしつかえないだろう。
著者は世界中を旅し、現場に足を踏み入れ、そこに溶け込み、現代日本のぬるま湯に浸かりきった我々には想像もつかない世界を突きつける。
今回彼が描くのは戦地や密林で生きる人々と幻のかかわりについて。フィリピンの密林に現れる人食い日本兵の亡霊、ある日突然、「私が産んだ」と言って乳飲み子を抱き始めたオカマの話など、現実と幻を行ったり来たりするうちに自らの足元がグラグラと揺らぎ始めていることに気がつく。
感心することもあれば、不快に感じる出来事もある。すべてをひっくるめて、読まずにはいられない。中毒になる一冊。
著者:石井光太 出版:河出書房新社 定価:1680円