別所哲也・坂本真綾の挑戦再び
異色の朗読劇『私の頭の中の消しゴム』
撮影=蔦野裕(foto uno)
日本のドラマ『Pure Soul』から韓国でリメイクされ、再び日本でブレイクした『私の頭の中の消しゴム』の朗読劇が、5月1日から開幕する。主人公の男性と女性2人による朗読劇。ただの朗読劇ではなく、ストレートプレイの要素、テレビ・映画的な手法も取り入れたうえ、全14公演で、7組のカップルが2回ずつ舞台に立つため、それぞれ異なった仕上がりになるのも楽しみなところ。今回、この朗読劇に別所哲也、坂本真綾が立つ。別所は2nd letter(第2回公演)から連続、坂本は1st letter(第1回公演)以来、2人ともこれが2度目の挑戦だ。
別所「この朗読劇は、まったく新しいジャンルです。ブロードウェイの“オフオフ”で、ディべロップとしてやるプレイに似ている感じがします。実験的です。朗読劇なのに動きがあって、しかもその動作を制限されているから、言葉が際立つんです。そして同じように無音であることも。鍾乳洞の中の無音を思い出す。句読点の意味、瞬間瞬間の言葉の意味が、何を話していても広がってしまう」
坂本「朗読劇というとおとなしい印象がありますよね。読みきかせ、言葉だけですべて表現していくから。でも、この朗読劇は動きもある、音楽もある。一般に言われる朗読劇とは違う印象になると思います。掛け合いも情熱的で、見たことも聞いたこともないようなものでした」
2人がそれぞれ自分の日記を読み進めるという体裁でストーリーは進む。そこに回想が織り込まれ、2人の掛け合いが生まれることもある。脚本・演出は、舞台・映画・ドラマなどで活躍する岡本貴也。ジャンルにとらわれないクロスボーダーな演出が鍵だ。
別所「本を読みながらの演技じゃないですか。相手を見られないし、触りたくても触れない。ある一定の直観や脊髄反射でできない部分もある。なのに、感情が落ちてるときに限って逆に『動いて!』とか、ついうなだれてしまうときには『持ちこたえて!』とか言うんですよ、演出は。かなりのサディストです(笑)」
坂本「自分の日記を読みあげてる設定だから、例えば相手に悪口を言われても反応すら許されない(笑)。でも個別の価値観が、時々キャッチボールになる瞬間があるのが面白いです。感情的にはかなり解放してほしいって言われるんですが、物理的には制御されているところのバランスが難しいですね。やりとりが毎回新鮮で、同じように演じても2回の公演でそれぞれ見えてくるものが全然違うから、やっていて楽しいというのはありますね」
さまざまな演出がある朗読劇。観客には、舞台を補完する、よりたくましい想像力が必要なのか。
坂本「うーん…でも、“観客と一緒に作る”というのはちょっと違うかもしれません。目に映るものに“リアル”はないんです。でも、なんだか妙に生々しいものに触れている感覚が広がって、観客が“受け取る”んじゃなくて、演じるほうも、見ているほうも、一緒に同じ大きなうずまく感覚に飲みこまれていく感じ。感情の高まりも激しくなるので消耗もしますけど」
別所「そう、目に映ること、起きていることが制限されていて、その中で演者も観客も演劇的旅をしていくから、逆にすごくクリエイティブで、そこにブレイクするポイントがあるんです。演者も観客も、訳もなく感情が解放されちゃう瞬間がね」
記憶を失っていく切なく、悲しい思いがつまったストーリーではあるが、別所曰く「決して後ろ向きにはならない、前向きになれる」作品。しっかりとした物語に実験的な演出の数々が詰まり、見応えは十分。ゴールデンウイークの観劇のラインアップにぜひ加えたい一本だ。
(本紙・土屋季之)
『朗読劇 私の頭の中の消しゴム 3rd letter』
【公演日程】5月1日(日)〜5月8日(日)全14公演 ※別 所哲也&坂本真綾は、5月2日(火)19時、5月8日(日)17時の2回 【会場】天王洲 銀河劇場 【料金】S席:5800円、A席:4800円 【出演】桐山漣・黒川智花、福山潤・佐津川愛美、別所哲也・坂本真綾、新納慎也・白羽ゆり、佐々木喜英・菊地美香、吉野圭吾・紫吹淳、中川晃教・村川絵梨 ※出演順 【問い合わせ】DHE 03-5457-8883(平日12〜18時)【URL】http://keshigomu.info