進まない放射能汚染調査に一石を投じる――いわき明星大学

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5月5日、いわき市中之作港近くの海岸で調査する佐々木准教授【撮影:蔦野裕(foto uno)】

 5月初旬、いわき市の沿岸部で海藻の生育状態を調査する男性がいた。いわき明星大学科学技術学部で藻類学を研究する佐々木秀明准教授だ。「1000年に一度という津波の影響で藻類の分布や育成の状態にどういった変化が見られるのか、これは調査しなければならない」と、依然津波の爪あとが残る海岸でサンプルを採取し、記録を取っていった。いわき市の沿岸部は魚影だけでなく藻類も豊かで、ワカメ、ノリなど食べられるものも多い。しかし、「原発の汚染水のせいで、今は誰も取る人がいない。生物学的には豊かになったとしても、寂しい話です」と海を見つめる。「短期的には津波の影響を調べるが、中長期的には放射能汚染の状況も調べていく。すでにいくつかの大学の研究者と連携し、調査を進めることになっている」。
 津波による影響では、いわきには平磯(平らな岩礁)が多く、そこに生息する藻類は大量の土砂をかぶって大きな打撃を受けていること、また、地震による地盤沈下で潮間帯に分布する藻類にも大きな打撃が出ることが予想される。いずれにしても藻類全般に大きな被害が出ているという。また、藻類の激減により生態系にも大きな影響が出ると予想される。福島県の沿岸部で広く特産物となっているウニは、藻類をえさにしているため打撃が大きい。また、沿岸部の藻類はさまざまな稚魚の住みかとなるため、今後の魚類の生息分布にも大きな影響が出そうだ。

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佐々木准教授。5月29日、いわき明星大学の研究室にて

  さらに、放射能汚染の影響について、佐々木准教授はこう話す。「藻類には地上の植物のような根がなく、体すべてが根のように栄養を吸収する機能を持つため、放射能汚染の度合いも高くなるはず。ワカメのように重金属を吸収する性質を持つ藻類ではさらに高くなるだろう」。現在、佐々木准教授は、東大・神戸大・宇都宮大など複数の大学の研究者と連携し、植物における放射能汚染調査を進めているという。「放射能汚染の拡大の現状を把握すること、汚染の生物濃縮の程度を把握する」ことが火急の用件で、藻類では日本のどこにでも見られるワカメ、アオサ、ホンダワラなどを指標生物にし、日本各地のサンプルと比較し、実態把握に努める。しかし、最終的には、陸上の生物も含め「放射能汚染の浄化に有効な植物を探すこと」が大きな目標だという。

 いわき明星大学では、現代GP(現代的教育ニーズ取組支援プログラム)の一環で菜の花を使った環境エネルギーの開発プロジェクトに取り組んできていたが、今後この活動を放射性物質追跡プロジェクトに転換し、地域と密接に連携しながら放射能汚染の問題に取り組んでいくという。