長島昭久のリアリズム 第四回
「海洋国家日本」の外交・安全保障戦略(その一)
今回から、5回に分けて我が国の外交・安全保障戦略について考えていきたい。
古来日本は、海による文明を育んできた。海洋からさまざまな恩恵を受け、また海に守られ、海洋との深いかかわりのなかで政治、経済、文化を築き、国を発展させてきた。我が国は、まぎれもなく「海洋国家」である。歴史の一局面で「海洋国家」と「大陸国家」の二兎を追い(1907年の「帝國國防方針」)、結果として国家を破滅に陥れたことがあった。しかし、そうした戦前戦中の一時期を除き、日本は一貫して海洋国家であり続けた。
我が国は、毎年約8億トンの原材料を輸入し、約1億トンの工業製品を輸出することにより、じつに8倍の付加価値をもって世界の繁栄に貢献する通商国家である。その輸出入の98%が海洋を通じての通商交易による。約38万平方キロ(世界第61位)の国土の約12倍に上る447万平方キロの排他的経済水域(EEZ)は世界第6位であり、6800の島々に沿って海岸線は米国より長い。しかも、我が国周辺海域は、日本海溝など深海が多く体積で比較すると世界第4位となり、水産業においても世界三大漁場の一つに数えられ、海底資源でもメタンハイドレードや熱水鉱床、コバルトリッチクラストなど高い可能性を秘めている。
したがって、我々は、日本が海洋国家であり貿易立国であるという地政学的本質を踏まえて、自国の生存と繁栄のための戦略を構想し、安全保障のあり方を決定していかなければならない。その意味で、領土、領海、領空における主権と安全の確保とともに、1万2000キロを超えるシーレーンの安全は、我が国にとって死活的に重要だ。野党時代に筆者が、ソマリア沖の海賊対処のため海上自衛隊の護衛艦を派遣するよう時の麻生太郎総理に迫ったのは、そのことを強く自覚していたからに他ならない。同時に、筆者が、かねがね議員交流の場などを通じ、韓国との間で日本海や東シナ海における海底資源の共同開発を提案してきた理由もそこにある。
ところが、近年、この海洋の安全が脅かされる事態が頻発している。昨年9月の尖閣沖領海内で勃発した中国漁船体当たり衝突事案は、その最新の事例といえる。東シナ海での中国の理不尽な振る舞いは今に始まったことではないが、それ以前から南シナ海で起こった事象を抜きに東シナ海における中国の行動の意味するところを把握することはできない。
次回は、南シナ海をめぐり近年激しさを増す米中の鍔迫り合いから解き明かしていく。
内閣総理大臣補佐官(外交・安全保障担当) 衆議院議員 長島昭久