光市母子殺害の元少年 上告棄却 死刑確定へ

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 平成11年の山口県光市母子殺害事件で、殺人や強姦致死などの罪に問われ、20年に広島高裁の差し戻し控訴審判決で死刑とされた元少年(30)の差し戻し上告審判決で、最高裁第1小法廷(金築誠志裁判長)は20日、元少年側の上告を棄却した。元少年の死刑が確定する。

 上告が棄却されたのは犯行当時18歳1カ月だった元少年の大月(旧姓・福田)孝行被告。事件発生から13年を経て裁判が終結する。

 最高裁が永山則夫元死刑囚の最初の上告審判決で死刑適用基準(永山基準)を示した昭和58年以降、殺害された被害者が2人の事件で、犯行時少年の被告の死刑が確定するのは初めて。最高裁が把握している限り、最も若い犯行時年齢での確定となる。少年でも残虐な犯行を起こせば厳罰で臨む姿勢を改めて示したといえる。裁判員裁判でも既に少年に死刑が言い渡されており、年齢が死刑回避の決定的な要因とならないことを印象づけた。

 同小法廷は「被害者の尊厳を踏みにじった犯行は冷酷、残虐で非人間的。被告は犯行の故意や殺害態様などについて不合理な弁解を述べており、真摯な反省の情をうかがうことはできない」と指摘。その上で「少年だったことや、更生の可能性もないとはいえないことなど酌むべき事情を考慮しても、刑事責任はあまりにも重大」と述べ、死刑判決はやむを得ないとした。

 4人の裁判官のうち3人の多数意見。宮川光治裁判官(弁護士出身)は「年齢に比べて精神的成熟度が低く幼い状態だったとうかがわれ、死刑回避の事情に該当し得る」と述べ、改めて審理を高裁に差し戻すべきだと主張した。死刑判決での反対意見は極めて異例。

 事件の遺族、本村洋さん(35)は20日の最高裁判決後、東京・霞が関の司法記者クラブで開かれた会見で、「この判決に勝者はいない」と苦悩に満ちた13年間を神妙に振り返った。「死の恐怖から罪の重さを悔い、かみしめる日々がくると思う。大変だと思うが乗り越えてほしい」と大月被告に語りかける場面もあった。その大月被告は判決前に広島拘置所で面会した関係者らによると、本村さんに対し「おわびしたい」と謝罪の言葉を述べる一方、事件そのものについては「殺意はなかった」と強い口調で訴えかけたという。

 大月被告の弁護団は20日、上告を棄却した最高裁判決について「極めて不当。誤った判決を正すため、今後とも最善を尽くす」と非難する声明を発表した。

 弁護団は声明で「被告に強姦目的も殺意もないことは客観証拠などから明らかにされたが、捜査段階で作成された虚偽の自白に依拠し、判断を誤った」と指摘。反省の日々を送っている態度に目を向けず更生の可能性を否定したと訴えた。

 また大月被告が幼児期に虐待を受けていたことから、「成長が阻害され、実質的に18歳未満の少年だった。未成熟な少年に死刑を科すことはできない」と主張。裁判官1人が反対意見を述べたことにも触れ、「死刑判決は全員一致でなければならないとする不文律を変えるもので、強く非難されなければならない」とした。

 少年への死刑適用については、最高裁の司法研修所が平成18年にまとめた調査で、殺人事件の被告が少年だった場合、「成人より刑を軽くすべきだ」としたのは、国民では25%だったのに対し、裁判官は90%を超え、国民と裁判官の意識の乖離が浮き彫りにもなった。

 ただ、量刑を決める明確で客観的な基準はなく、プロの裁判官でも結論が分かれるケースは少なくない。