青島健太 ROAD TO LONDON
日本が初めて五輪に参加してから100年
節目の大会でどんな活躍を見せてくれるのか
女性にも大人気。ピザの女王とも言えるのは「マルゲリータ」だろう。モッツァレラチーズにフレッシュトマトのトッピング。そこへフレッシュバジルを振りかけると何とも上品な「マルゲリータ」が出来上がる。
先日、テレビでこの「マルゲリータ」の名前の由来が紹介されていた。ときは19世紀後半のイタリア・ナポリ。ウンベルト1世の妃マルゲリータ王女は、大のピザ好き。なんとナポリ王宮から、お気に入りのレストランまで秘密の地下通路を掘らせてお忍びでピザを食べに来ていたとか。王女が好きだったのは、モッツァレラチーズとフレッシュトマトを乗せてバジルをかけたシンプルなピザ。真偽のほどは定かではないが、この逸話から王女が好んだこのピザを「マルゲリータ」と呼ぶようになったというのだ。
王女のピザへの情熱が、名前になって残るイタリアらしい話だが、五輪への関心と子供たちへの愛情が不思議な距離となって残る女王の逸話もある。
ところ変わってイギリス。1908年のロンドン五輪でのエピソードだ。
このときのマラソンコースは、都心のウインザーからホワイトシティーまでの約26マイルで設定されていた。ゴールのロイヤルボックスで観戦を予定していたアレキサンドラ女王だったが、ウインザー城に残る子供や孫にもマラソンのスタートを見せてあげたいと思った。そこでスタート地点を城の庭まで延ばすことを指示する。このときに延長された距離が、352mだったそうだ。
「約26マイル+352m=42.195km」
この距離が、後にマラソン競技の正式な距離に認められて(1921年の国際陸上競技連盟の会議)42.195�という摩訶不思議な距離が生まれたそうだ。
女王と言えば、今夏のロンドン五輪でもエリザベス女王が開会式でスピーチをする予定だ。それでも、マラソンの距離が再び変更されるようなことはさすがにないだろう(笑)。
さて、そのマラソンで期待が集まるのは、男子の藤原新選手だ。今年の東京マラソンで2時間7分48秒(日本人最上位の2位)の好記録をマーク。マラソンに専念するために所属の実業団を退社。たった一人で練習を積み重ね、東京マラソンも「無職のランナー」として注目を集めた。レース終盤のきつい場面では、「賞金」と副賞の「高級外国車」のことばかり考えて走った......と笑った。ハングリーは五輪でも大きな武器になるだろう。
この人には、満足や満腹という感覚がない。競泳・男子平泳ぎの北島康介選手だ。アテネ五輪、北京五輪と2大会連続の2種目金メダル。今回も100mと200mで金メダルを狙いにいく。
北島選手の泳ぎの最大の特徴は、誰よりも水の抵抗を少なくして泳げることだ。抵抗が小さい分、手足が生み出した推進力で最大限効果的に前に進んでいくことができる。アテネで勝った後には「チョー気持ちいい」と叫び、北京の後には「なんも言えねぇ〜」と言った北島選手が、ロンドンでは何と言うか。その発言も楽しみだ。
北島選手と一緒に3大会連続の金メダルを目指すのは、女子レスリングの吉田沙保里選手だ。所属する警備会社のテレビCMでもおなじみの彼女。その運動能力の高さはCMのキャラクター同様に万能だ。壁に自由自在に張り付き、相手の動きを何でも見通せる光線を目から出しているかのように戦う。今回も元気いっぱいに暴れることだろう。
元気と言えばディーン元気選手(早稲田大学3年生・20歳)も忘れてはいけない。陸上競技男子やり投げの超新星。6月の日本選手権で優勝(84m03)を飾り堂々の五輪出場を果たした。父親が英国人の彼は、練習場に「LONDON Go Back Home」と張り紙をしていたそうだ。夢叶って参戦する父の故郷での五輪。これ以上の親孝行はないだろう。
今回の五輪も、見どころ満載だ。男女のサッカー、男子体操の内村航平選手、男女柔道の面々、ハンマー投げの室伏広治選手......等々、いずれも金メダルの期待がかかる。
日本が初めて五輪に参加したのは1912年のストックホルム五輪だ。それからちょうど100年。節目の大会で、日本の選手がどんな活躍を見せてくれるのか。マルゲリータ王女のように歴史にその名前を残すのはいったい誰なのか。五輪はいつでも応援というトッピングで盛り上がる。
【青島健太 プロフィル】スポーツライター&キャスター。五輪で活躍した選手たちの言葉を味わう『メダリストの言葉はなぜ心に響くのか』(フォレスト出版)が6月に出版されたばかり。