東京食道楽 第84回 鳥居みゆきのメニューを迷わないお店。
つかみどころのないキャラクターと奇抜なメイクをしても隠しきれない美貌を持つ女芸人・鳥居みゆき。独特な言葉選びと、どこに向かっているのか分からないトークに翻弄されつつ、鳥居が通うインド料理店で、インタビュースタート!
事務所の近くなので、よく食べに来るという「ディップマハル 四谷四丁目店」。メニューを見るや、すぐにカレーとナンと飲み物をオーダー。食べるものは、いつも同じメニューだとか。
「ここはね、よく来ますよ。すっごいしょっちゅう。4か月に1回ぐらい(笑)。事務所が移転する前は、本当にすぐ近くだったので、毎日のように来てたんですけど、ある日事務所に行ったら雰囲気が違ってて。3日ぐらいして、事務所が移転して、違う会社だって気が付いた(笑)。だから今は、前よりちょっと遠くなったので、ここに来るまでに通る中華料理屋のおばちゃんに止められちゃう。おばちゃんの勢いがすごくて、カレーの気分でも、いつの間にか中華になってる(笑)。私、メニューは全然迷わないんですよ。どこでも決まっているから。ここも“チキンティッカマサラ”のマイルドとバターナン。チーズナンもおいしいんだけど、量が多いから今日はバターで。あとは、ラッシーを頼むか頼まないか。それはお金の問題で(笑)。人のお皿からちょっともらって、他のメニューも頼みますけど、結局これ。おいしいですよ。ここのは、本場のインド料理というより、もっと日本人向けにしてあって食べやすい…って、行ったことないから本場のインド料理知らないけど(笑)」
笑いを入れながら、パクパクとおいしそうにカレーを食べる鳥居。話題は7月19日に出版される2冊目の小説のことに。
「前回出した『夜にはずっと深い夜を』が2月に文庫になって、もうすぐ2冊目の本『余った傘はありません』が出ます。タイトルに込めたのは、素直になれない気持ちです。素直に優しくなれないんです、私。例えば雨が降っていて、自分が傘を持っていて、人が雨に濡れているのを見ても、一緒に入ろうって言えない。だから後輩にも一緒にご飯に行こうって誘えない。“ご飯行くよね。さあ、スケジュールに入れて”みたいな上からな言い方をしちゃう。断られるのが怖いから」
繊細な人なのだ。そして、2冊の小説に共通するのは“死”だという。
「特に1冊目は、ハリーポッターみたいなグロイ話ばかりです(笑)。人の死の話ばっかり。私の単独ライブのコントも死の話ばかり。私はね、生きたいんです。死を知ることで生を知る。生きることにすごく興味があるから、死の漠然とした怖さって何かなって…。血が中にあるか、外にあるかだけの違いなのにとか。無になる恐怖ですよね。あと、記憶に残っていてほしいっていう思い。人の記憶力のはかなさは知ってるから。そして人のもろさも。私、ほんとすぐにいろんなことが嫌になっちゃうので、だからあえて人と触れあっていたほうがいいかなって。でも人といっぱい喋るとそれはそれで、家に帰ってガクンって疲れちゃうから、そういう人に向けた本です。私のファンって、ちょっと弱いっていうか…素直な人が多いんですよ。ピュア過ぎて生きづらい人。私の永遠の目標は万人受けなのに、すごくコアなファンばっかり(笑)」
本当?
「嘘です(笑)。万人受けしないからこそ、みんなが集まって、一人にやっとなれるというか。私もそんなファンの人がいるから力強いし、お互いさまです。でも弱さは誰にでもありますよね。普段は見せないけど、人間なら誰もが持っているごく一部の限られた気持ちを揺さぶりたいんです。文章で。私の本は、ちょっと病んでいるコアな人に刺さるのかも知れないけど、それ以外の人も絶対そういうところがあるでしょ。その気持ちに気づいてほしいんです。だから私の本は多分最初は共感できないかもしれない。でもきっとわかるところがあると思う」
生きたいから“死”について深く考えるという鳥居。彼女の小説にあふれる多くの死の物語の中にも、生をまっとうしたすがすがしさ、できなかった悔しさ、無念さなど死によって見える生きている人間の姿がある。
撮影協力:ディップマハル/撮影:宮上晃一
【住所】新宿区四谷4-7 小林ビル1F
【営業時間】ランチ11〜17時 16時30分(L.O.)、ディナー 17〜24時 23時(L.O.)
【定休日】無【問い合わせ】03-3358-6528