【夏フェス】FRF12 ザ・ストーン・ローゼスに苗場が大合唱
フジロック初日。時間は午後9時30分。いよいよその時がやってきた。再結成の噂に何度も心を躍らされ、そのたびに「やっぱりね」と落胆させられてきた、英マンチェスター出身の4人組ザ・ストーン・ローゼスが、この日は本当に日本の観客の前でプレーする。ステージ前はその興奮が渦巻いていた。
彼らへの期待の大きさはフジロックに向かう新幹線の中でもじわじわと伝わってきた。会場に足を踏み入れればなおさらで、すれ違う人すれ違う人が年代ものと思われる少し色あせたザ・ストーン・ローゼスのTシャツを着ていた。
フジロックには似合わない灼熱の太陽が沈んで、ぐっと気温も下がった9時半すぎ。会場から自然発生的に「ローゼス! ローゼス!」とバンドを呼ぶ声がわきあがってきた。「イアン!」「ジョン!」とメンバーの名を口ぐちに呼ぶファンもいる。「ローゼス!」コールは次第に広がり、ステージに相対する山々に反響。すると、ふっとステージエリアは暗闇に包まれた。
苗場の木々の色のような鮮やかなグリーンのトップスを来たボーカルのイアン・ブラウンが、フジロックで一番大きなステージエリアを埋め尽くした人たち一人ひとりの表情を確認するかのように、ゆっくりと視線を動かす。歓声は増し、そして次の瞬間、悲鳴に変わった。
ベースのマニそして、ギターのジョン・スクワイアが奏で出したのはあのイントロ。名曲『I Wanna Be Adored』だ。ひたひたと忍び寄ってくるこの曲は、セットのオープニングにはもっともふさわしい曲。オーディエンスは心地よいグルーヴに体を揺らしながら、シング・アロング。最初から大合唱だ。
彼らがリリースしたアルバムはたった2枚しかない。必然的にこの夜にプレーした楽曲は、その楽曲をさらに凝縮した濃密なラインアップだ。『Sally Cinnamon』『Ten Storey Love Song』『Fools Gold』『Waterfall』......どの曲を演奏しても、会場は大合唱だった。
イアンは大きなステージを右に左に移動し、マニと肩を寄せ、レニに微笑みかけ、そしてジョンに優しい視線を送る。その姿に、ファンはさらに歓喜した。バンドとして活動していたころから言い続けられてることだが、ザ・ストーン・ローゼスは決してテクニック的に優れているわけでも、歌がうまいわけでもない。しかし、生ける伝説としてなお世界中に信奉者がいるのは、この4人が集まって、音を出した時に起きる"何か"に魅了されるからだ。この夜もまた、そんな"何か"を感じさせてくれる夜だった。
ラストの『I Am the Resurrection』まで全16曲。観客は、ザ・ストーン・ローゼスの圧倒的な存在感と、空間を支配するオーラ、そして温かさを堪能した。