緊急インタビュー 長島昭久 総理大臣補佐官
尖閣、竹島、北方領土という日本の領土をめぐって、最近なにやら騒がしい。ニュースはそれなりに真剣に見ているのだが、原発問題や、それに伴う電力問題に比べて切迫した問題としてとらえている人は思いのほか少ない。そこで今回、本紙でコラムを連載中で、現在、総理大臣補佐官(外交および安全保障担当)を務める長島昭久氏に尖閣問題を中心に外交・国防について聞いてみた。
4月に石原都知事が尖閣諸島の購入を宣言し、一気に世間の注目が集まりました。そして長島さんは7月6日に都知事と会われました。
「所有権を国に移す方向で地権者、東京都と調整をしています。中国との関係を安定化させる意味でも、この調整をきちっとやらないといけないと思っています」
尖閣問題は1978年の小平副総理(当時)のスピーチをきっかけに長く“棚上げ”されてきましたが、これは先人の知恵だったのですか怠慢だったのですか?
「当時は、東シナ海における領土問題、排他的経済水域という問題についての意識が国民の中でも非常に低かったんですね。それが反映して政府も、中国との関係においてはある意味では事なかれ主義だった。政府のそういう意味での怠慢、弱腰、事なかれ主義が今日の状況を招いたと思っていますので、今、国として政府としてきちんと主張し、行動する必要が出てきたと思います。小平さんの発言は、あの当時の両国の国力を前提に成り立っていた話だったのだと思う反面、実は自分たちの力がつくまでの『時間稼ぎ』だった可能性も否定できません。今や全然状況が変わって、中国の国力が相対的に日本を越えてしまった。この状況のなかで日本国としてどうするか、自分たちの領土をどうすべきかをみんなが考えなければいけない時期に来ているのだと思います。私はずっと“海洋国家”という言葉を使ってきましたが、海によって生かされた国は、海をどう生かしていくかということを日本は世界に先駆けてしっかり行動で示していかなければいけない。そういう責任があると思っているんですね。尖閣の問題というのも、単に尖閣をどうするかという問題ではなくて、島国である日本が、海と島というものをどう平和的に、そして安定的に利用し生かしていくかということを考えていくという大きな命題を突きつけられていると思っているんです」
尖閣の国有化というのは国防を専門でやっている人たちからすると昔から命題としてあったわけですか?
「そうです」
では石原発言というのは渡りに船?
「領土に対する国民の意識というものを覚醒させる意味では非常にインパクトがあったと思っています。ただ、東京都が管理して好きなようにしていいかというと、そういうわけにはいかない。否が応でも国際問題に発展するわけですから、国が責任を持って管理していくというのが私は望ましいと思っています」
今後は都が買ってから国にいかに譲渡するかというのが問題です。
「都が先に買うのか、それとも国が先に買ってしまうのか。ここはまだ調整がついていないんです」
今、放射能や電気の問題に国民の注目が集まっています。身近な問題として実感できることが大きいのでしょう。さて翻って国防の問題を身近な問題として引き寄せるいい方法はないものでしょうか。
「国防って有事が起きて初めて “あ、備えが足りなかった”って分かるんです。平和な時代においてはバーチャルな問題になっているんで、伝え方は難しいんです。ただ最近は北朝鮮がミサイルを撃ったり、中国の船が日本を脅かしたりということが出てきていますので、そういうことを通じて、“やはり備える必要はありますよね”という議論を進めることはできると思います。あとは歴史をひもといたり、別の地域で起こっていることをもとに考えてみる。例えば東シナ海の話をするときには、南シナ海で中国がどういうことをやっているかということを参照しながら説明すると、それなりにリアルに近い形で説明することができるのではないかと思っています。そしてそのうえで、政治家が積極的に説明をしていかないとダメなんですよね。こういう問題は未然に防がなきゃいけないんですが、生活とあんまり関係がないから、どんどん後ろ倒しになっていく。でも国民の理解がないと税金もつかないんです」
そうであるなら、尖閣のビデオは流したほうが良かった。
「中国との関係を安定化させるということでいえば、かつては日本が国力で優位に立っていた時代には、“こちら側から嫌なことはしない、そうすれば安定する”という図式だったんです。しかし中国の国力がどんどん大きくなるにつれて、そういう図式が成り立たなくなってきました。こっちが何もしなくても向こうが踏み込んでくるケースが増えてきたんです。でもメンタリティーが昔のままだったんで、ビデオを見せると事を荒立てることになるから辞めておこうという話になったんです。しかし国内世論と国際社会が納得するようなプレゼンテーションをしないと、“中国の言っていることが正しい”といった話になりかねないので、今後はもうちょっと積極的な、“パブリックディプロマシー”という言葉があるんですが、もっともっと内外にアピールして国際世論を見方に引きつける外交を心がけていきたいと思っています」