吹越 満 インタビュー
約1年半に及ぶ改修期間を経て、今年9月にリニューアルした東京芸術劇場。野田秀樹芸術監督のもと相変わらず興味深い企画を連発している。12月には吹越満が戯曲初演出を手がける『ポリグラフ〜嘘発見器〜』が上演される。
吹越は自らのソロ・アクト・ライブ以外では初めての演出となる。
「一人舞台での稽古場では、僕は非常に乱暴に動き回っていて、箱馬をはじめものすごくたくさんいろんなものを壊してきたんです。今回はそう言う意味では、危ない稽古場というのは避けないといけないし、探り探りの部分はあります。作品を作ると同時にどういうやり方をするのかっていうことを一緒に探していく感じだと思っています」
今回は森山開次、太田緑ロランス、そして吹越満という三人芝居。
「キャストは僕の意見を通させていただきました。森山さんは映像で見ていました。太田さんは『表に出ろいっ!』を見に行ったときに終演後にちょっとお話をしました。で、キャスティングの時に太田さんのことを思い出しました」
脚本を読むとセリフの展開がとても面白い。そしてト書きの部分が難解。この脚本がどういうふうに舞台上で展開されるのか楽しみだ。
「読んでいただいた脚本と僕が一番最初に読んだ脚本は若干違っているんです。ルパージュさんたちの脚本は多分、先に体を動かしてできたお話を書き留めていってできあがったものだと思うんです。僕が一番最初に読んだのは、その台本だったので、ト書きがすごく具体的だった。その台本だと役者さんが読んだときに自由に発想しにくいのではないかと思いました。それで “演出をちょっと変えていいですよ”というお話があったので、ト書きの部分をちょっと省いたり言い換えたりした台本というのを新たに作ったんです。それを読んでいただいたので、なおさら難解という印象を持たれたんだと思うんです」
今のところ演出家モード全開。
「今までは演出家とかかわる時はただの役者でしかなかったんで何にも気にしてなかったんですが、今回はそういうわけにはいかない。僕は芝居に対しては嫌なことだけ省いていくと好きなことだけ残せるんじゃないかっていう考えをもっているんです。なので演出家としては勇気を持って “それは嫌なので”っていうことを言わなければいけない。言われるほうは意外になにも考えていないというか、“あーそうか。ちょっと間違えちゃったかな。じゃあどういうのがいい?”っていう感じなんですけどね。でも今回は僕も出るので、そう言った意味では、自分が動いてやっているというのをお互いに見ることになるから、そこでだんだん求められているテイストとかトーンというものが近寄ってくる。言葉で“こうしてください。ああしてください”ということももちろん言うけれども、僕の動きの中から出ちゃっているわけじゃないですか、好みみたいなものが。そういうことで場が慣れてくるんじゃないですかね」
吹越満、三人芝居というと、1998年に上演された野田秀樹、牧瀬里穂との『Right Eye』を思い出す。当時、野田と吹越という身体能力が高い2人が少人数の中で絡むこの舞台はファンにはとても魅力的だった。
「今回の場合はそういう意味では、僕が野田さんの立場ということじゃないですか。ところが能力としては森山さんに頼るところのほうが大きいので、森山さんの魅力を存分に引き出すことが、僕なんかにホントにできるのかなって思うところもあります。なので森山さんの今までと違う面や、森山さん自身に楽しんでもらえるような何かを探していくっていうことになるんじゃないかと思います」
この作品は言語と身体の両方が高いレベルで融合することが望まれる。野田芸術監督が吹越にこの作品を預けたのも多分そういう期待を込めてのもの。現在、稽古場ではさまざまな試行錯誤が行われている。12月12日、吹越版『ポリグラフ』、どんな作品を見せてくれるのだろうか。
(本紙・本吉英人)