ニュースの焦点 五輪「立候補ファイル」公表で招致活動本格化
2020年東京五輪招致委員会は8日、国際オリンピック委員会(IOC)に提出した開催計画書「立候補ファイル」を公表した。大会ビジョンには「安全な大会の開催」を掲げ、インフラと最先端技術が整う東京の都市力を強調。東京五輪を通じて「スポーツの力で人々を団結させ、鼓舞するとともに、未来へのレガシーを築く」と未来志向型の五輪像を打ち出した。
招致スローガンは東日本大震災からの復興の意図を込め、「Discover Tomorrow〜未来(あした)をつかもう〜」とし、サッカーの1次リーグを宮城県で行う。1964年東京五輪でメーン会場だった国立競技場を8万人収容に改築して開閉会式などを行い、中央区晴海に建設する選手村から半径8キロ圏内に東京近郊の33会場のうち85%の28会場が収まる「コンパクトな大会開催」とした。昨年2月の申請ファイル提出時には、震災からの「日本復活五輪」と位置づけたが、今回はその文言を盛り込まず「20年招致は希望を生み出し、困難に打ち勝って明るい未来に前進する力」などと記載。また放射能漏れへの不安に配慮し、東京の放射線量は「国際基準値を大幅に下回る」と説明。地震や津波などの災害、電力不足の懸念にも万全の備えを強調した。
東京は2016年招致でも高く評価された開催計画を、さらに細部を磨き上げ2度目の招致レースに臨む。前回の売りだったコンパクトな競技会場配置はそのままに、16年五輪招致では有明北地区(江東区)に予定されていた選手村は今回は晴海地区に変更。44ヘクタールを確保し、トレーニング施設も併設できるようにした。
東京が敗れた前回16年招致で「外交力の不足」を指摘された日本オリンピック委員会(JOC)。
招致のカギを握るのは、投票権を持つ約100人のIOC委員へのアプローチ。「水面下では招致レースが始まっている」(招致関係者)との指摘通り、イスタンブールはイスラム圏での足場固めに精力的で、マドリードはスペイン王室を通じたネットワークの活用で支持を広げているとの観測もある。
JOCは昨夏のロンドン五輪期間中、活動拠点となる「ジャパンハウス」をロンドン市中心部に開設し、IOC委員ら延べ約400人のVIPを歓待した。だが、約20票あるアジアは、地域が広範で民俗や宗教も多様なため、取りまとめは一筋縄ではいかない。尖閣諸島の問題で日中関係が冷え切っているのも気がかりだ。東日本大震災との関連が指摘される昨年12月の中央道のトンネル崩落事故や三陸沖の地震に「IOC委員は神経質になっている」(竹田会長)という。日本の「安全神話」を砕いた災害への不安は、国内と海外で温度差があり、「安全」の発信も重要になる。
会見で猪瀬直樹東京都知事は「東京には長い歴史が育んできた伝統文化から最先端のテクノロジー、若者文化まで世界をリードするトレンドの中心であり、世界でも類をみない安全性を誇る都市。ここで繰り広げられる大会は、かつてないダイナミックな祭典になる」と意義を強調。今回のファイルでは、東日本大震災からの「復興」という直接的な文言より、「困難に打ち勝って前進する」という未来志向を打ち出したのだが、猪瀬知事は「2020年の開催というのは、復興に向けた大きな目標になる。世界中から受けた、励ましや支援に対しての返礼の場にもなる」と復興への思いを語った。
前回の敗因を踏まえて、ロビー活動の秘策を聞かれた猪瀬知事は「この前は、東京は一生懸命頑張っていた。ところが、国が政権交代とか、政局でゴタゴタしていて、そういう状況では、一丸となってやる雰囲気がつくれなかった。(今回は)いろんな形で、外務省の官僚も、文科省の官僚も動いてもらいます」と強い口調で語った。
またIOCから支持率と電力に関する懸念が示されていることについては「支持率が47%だったのは民主党政権の末期で、復興の展望も見えず、原発事故があって電力の供給がどうなるかわからない状況」としたうえで、「今は政局も片付いた。電力改革は僕自身が当事者としてあたっている」と述べた。