COVER INTERVIEW 玉木宏
俳優・玉木宏が、新たなステージに進む! 現在放送中の人気番組「アイアンシェフ」の華麗な主宰から一転、初舞台・初主演で挑むのは伝説の戦場カメラマン。そこにかける玉木の思いとは?
今回が初舞台という玉木だが、考えてみれば彼の声は間違いなく舞台映えする。前々から舞台のオファーはあったはずだが…。
「僕自身も20代半ばのころから舞台に興味を持っていたんです。舞台に出た友人や舞台畑の役者さんたちの話を聞いて、映像とはまったく違う勉強ができるだろうなと思っていて。早めにやりたいとは思っていたんですけど、なかなかタイミングが合わなくて今に至った感じです。ただ、この作品で初舞台を踏めるのはすごく良かったなと思っています。ほとんどの人が“最初の作品は自分が楽しめるものがいいよ”とアドバイスしてくれるんですけど、自分にとってはそれがこの作品だと思えたんです」
ベトナム戦争を撮影しピュリツァー賞に輝いた戦場カメラマン・澤田教一と妻・サタ、同僚や親友らとの人間関係を、ベトナム戦争時に澤田はもちろん、世界中のマスコミが使用したホテル マジェスティックを舞台に描く物語。
「ベトナム戦争というシリアスな要素が背景にあるんですが、描かれているのは、今を一生懸命生きようとする人間のドラマなんです。ストーリーの組み方も素晴らしくて、普段台本を読むときは、自分がどう演じるかを考えながら読むんですけど、それを忘れて読み入ってしまったんです(笑)」
すっかり魅了されたその様子からは、初舞台で初主演というプレッシャーは感じられない。
「確かに、同じライブでも音楽と舞台は違うし、芝居といっても映画やドラマとはまったく違う。何もかもが未体験なので、これから稽古でつかんでいくしかないな、と。でもどちらかというとワクワクしています。とにかくもう稽古から全力で臨むつもりでいます(笑)」
そして今、玉木は夢中で澤田教一を追っている。
「澤田さんは僕とほぼ同年代で亡くなられているんですけど、彼の仕事を追っていると、なんだか同じ世代がしたこととは思えないんです。すごく大人に見える。ピュリツァー賞を取られたのも30歳ですからね。何よりすごいと思うのは澤田さんの責任感、使命感なんです。最初はやはり名誉欲もあったと思います。でも自分が置かれている状況の中で、臨機応変に変わることができた。自分のためではなく、誰かのために使命感を持って戦場に向かうようになった。澤田さんが賞をとった『安全への逃避』という作品。受賞後、澤田さんは被写体となった家族に賞金を渡しているんです。撮った後も撮影者として、責任を持って使命を果たそうとしたんだと思うんです。そんな澤田さんの温かさ、人間らしさが伝わる舞台にしたいですね。澤田さんの姿は、今の時代にも大きなメッセージを伝えてくれると思います」
澤田を演じるうえで玉木にはある強みがある。カメラという共通点だ。
「実は僕もライカを持っていて、使ったことがあるので、カメラの持ち方は自然だと思います(笑)。僕がカメラにはまったのは、ローライフレックスというクラシックカメラを買ったことがきっかけでした。これがとにかく初心者には難しいカメラで、ピントも合わず、思うような写真が全然撮れない。それで一眼レフを買ったらすごく簡単に撮ることができたので、そこからカメラが面白くなったんです。そういえば、サタさんが初めて澤田さんに貸したカメラがローライフレックスだったそうです。これも何かの縁かな(笑)」
今、玉木は写真家としても活躍している。
「でも写真に何が必要か、ということに気づいてから難しくて(笑)。今後もカメラの勉強は続けていくつもりです。映像を撮るほうですか? それは今のところまったく興味が無いですね。一枚の静止画で何かを伝えるということに面白みを感じています」
その目から見たカメラマン・澤田教一の才能とは?
「澤田さんは初めから報道カメラマンをやってきた人ではないので、専門的な知識にとらわれないところがあるんです。あの当時、報道写真は横使いが一般的だったそうなんですが澤田さんは縦使いでも撮っているんです。あえてなのか知らなかったのかは分かりませんが、でも結果的にその斬新さが評価されたんですね。後から新聞でどう使われるかを優先するのではなく、自分の表現したいものをどう伝えるかを瞬間的に判断していたんだと思うんです。実は先日ベトナムに行って、実際に澤田さんと親交があったカメラマンと話すことができたんですが、彼の話からもそう感じとれました」
澤田を追ってベトナムへ。そこで澤田の体温を感じた、と玉木。
「『安全への逃避』に写っている家族にも会って、撮影当時の話を聞くこともできました。それと奥さんのサタさんにもお会いしました。サタさんと澤田さんが一緒に行っていた市場にも行ったんですが、当時もこうして2人で仲良く買い物してたんだなと思ったらすごく切ない気持ちになりましたけど、旅を通してちゃんと澤田さんの体温を感じることができました」
玉木がベトナムでカメラに収めた光景は公演会場のロビーで展示されるとのことで、こちらも楽しみ。写真で、初舞台で、知られざる澤田教一の“体温”を、玉木宏が伝えてくれるはずだ。
(本紙・秋吉布由子)
【脚本】樫田正剛
【演出】星田良子
【出演】玉木宏、酒井美紀、徳山秀典、秋山真太郎(劇団EXILE)、紫吹淳、別所哲也 他
【東京公演】3月7日(木)〜17日(日)【会場】新国立劇場 中劇場
【チケット】8000円(税込)フジテレビダイレクト、ローソンチケット他にて発売中
【URL】www.h-majestic.jp