サム・ライミ　最新作『オズ　はじまりの戦い』で「使ったこと無い頭の筋肉を使った」

「僕は常に新しいことに挑戦して、新しいタイプの作品をみなさんに届けたいと思っているんだ。映画のジャンルやスタイルといったことはもちろん、自分自身がどう作品に取り組むかということにおいても、いつも新しい挑戦を探している。僕はこれまで、男性だけでなく女性や子供たちにも喜んでもらえるような、いわゆるファミリー映画を撮ったことがなかった。だから今回この作品を撮ろうと思ったのは、幅広い世代に喜んでもらえる作品に挑戦できる、ということが大きなポイントになったんだよ」

　確かに、本作はこれまでのライミ作品とはまた違う魅力にあふれている。女性たちはジェームズ・フランコ演じる主人公・オズの魅力に逆らえないだろうし、オズと仲間が戦いに身を投じる姿は男性陣も興奮必至。見事な映像美で描かれる空想の世界には大人も圧倒され、個性的な登場人物との冒険に子供たちも大喜び間違いなしだ。
「いつもとは、使う頭の場所も違うような気がしたよ（笑）。今まで使ったことも無い頭の筋肉を使ったような感じ。いいエクササイズになったんじゃないかな（笑）。その代表が“陶器の少女”だ。彼女は完全なCGキャラクターで、声を演じるジョーイ・キングの人間性をそこに吹き込まなければならなかった。完全なCGキャラクターに魂を宿らせるなんて、したことがなかったからね」

『スパイダーマン』3部作で見事な映像演出を発揮した監督にとっても、今回は大きな挑戦だったようだ。
「『スパイダーマン』は確かに本作と規模は同じくらいだったけど、あれはスパイダーマンという主人公が1人いて、実在するマンハッタンで繰り広げられる物語だったから。今回はまったく違うよ。葉っぱの1枚から昆虫1匹まで、何から何まで作らなきゃいけなかったんだからね（笑）！ 何もないところから実在しない世界を作り上げる、そういう意味でも壮大な作業だった。そのビジュアルに合わせて物語の世界観も膨らんでいくわけだから、クリエイターたち一人ひとりに僕のイメージを理解してもらわなければならなかった。すごく大変だったよ」

　そんなCGで描かれる空想の世界に観客を引き込むのが、俳優たちの生き生きとした演技だ。
「彼らは本当に皆、すばらしいコラボレーターなんだ。もちろん、彼らとは事前にも撮影中にもいろいろなことを話し合ったよ。彼らは皆それぞれが、自分の演じるキャラクターをすごく深いところまで理解してた。撮影中は、キャラクターの目線を通して物語を見ているから、僕が気づかなかった点を“このキャラクターの場合、それは違うんじゃない？”って逆に指摘されることもあったくらいでね（笑）。例えば、陶器の少女の声を演じたジョーイ。陶器の少女は、悪い魔女の攻撃によって家族を失い自分も足が壊れて歩けなくなってしまうという悲惨な設定なんだけど、ジョーイの役の解釈はまさに少女らしいものだった。ジョーイいわく“もともと勇敢な子って設定なんだから、何があっても負けないわ。もっと明るく元気に演じるのはどう？”ってね（笑）」

　映画では魅力あふれるキャラクターが一番大事なんだ、と監督。
「確かに、映像に対する観客の目はどんどん肥えている。新しい技術が生まれるたびに、今度はそれを超えるものを作らなきゃいけない。作り手にとっては難しい時代になったな、と思うよ（笑）。だけどやはり、僕にとって技術的な面は二の次、三の次で、あくまで大切なのは観客が共感できるキャラクターの存在なんだ。観客がそのキャラクターに恋をして、思わず応援したくなるような、ね。そしてそのキャラクターと一緒に大冒険に出るという体験を味わえることが、映画の醍醐味であり、大事な事だと思うんだ。これは、おとぎ話の醍醐味でもあるね」

　実は子供時代の監督を魅了したおとぎ話が『オズの魔法使い』だった。
「オリジナルの映画『オズの魔法使い』は見たことある？ 僕は、あの作品に込められたメッセージにすごく共感したんだ。ライオン、かかし、ブリキ男のように、誰しも自分には何かが欠けていると思っている。けれど自分をよく見つめれば、それは自分の中に眠っているんだよ、と教えてくれる。本作もオズを通して、自分の中に隠されていた可能性に気付かせてくれる物語なんだ」

　思えば『スパイダーマン』のピーターもそんなキャラクターの1人だった。オズは僕の作品の原点とも言えるね、と微笑む監督。オズの国への招待状は、監督からファンへのエールに違いない。
（本紙・秋吉布由子）