Remember 3.11 Interview 大矢中子さん (特定非営利活動法人 メディアージ代表)
東日本大震災から2年が経った。しかしまだまだ復興は進んでいない。本紙では昨年、震災後から現地でボランティア活動をしていた大矢中子さんにお話をうかがった。大矢さんは「笑顔311」という被災地をメディアでつなぐプロジェクトを運営している。あれから1年。被災地はいったいどうなっているのか? 改めて大矢さんに話を聞いた。
1年前、「そろそろ東京と被災地での生活が半々くらいになってきた」と言ってましたが、最近はいかがでしょうか。
「去年の8月から石巻に家を借りて住んでいまして、今はほとんど東京には戻っていないんです。復興に伴う石巻の駅前の中心市街地の再開発事業を手伝うことになって、現地の事務局のお手伝いのようなことをしています」
なにやらすごい展開です。ではもともとの「笑顔311」の活動は?
「笑顔311というUstreamを使った情報発信の活動をしていたんですが、それを法人化しまして『NPO法人メディアージ』として活動しています。仙台の大学生たちが週1回Ustreamを使って震災復興の情報番組を配信し続けています。この他にも復興系のイベントの中継の依頼を受けることが多くなりました。多い時で週1〜2回。月に2〜3回くらいは中継事業をしています。東北以外からの依頼も多く、広島、神戸、福岡といったところからの中継もしています。福島原発に関わる広域避難者の方って全国に散らばっているんですが、避難者同士で集まれるような会を自分たちで企画したり、団体を作っている人たちが多いんです。その人たちをブロックごとに集めた広域避難者のためのタウンミーティングが全国で行われているんですが、それをUstreamで中継しています。補助金の問題ひとつをとっても、一人の力では行政は全く動かないので、署名をして行政に働きかけるとかみんなでやることで行政サービスを変えていこうということが多々あって、そのために連携していくための情報交換の場づくりは必要なんです」
文通を続けることも立派なボランティア
最近のボランティアの状況は?
「石巻だとまだガレキ系のボランティアもあります。でも肉体系は少ないです。震災関連死として最終的にまとめられてしまうのですが、仮設住宅での自殺者が増えて来ているという話も聞こえてきます。特に男の人。奥さんや子供を失って生きる希望を失ってしまったりとか。女性でも小さい子供をなくしたお母さんなんかは、自分の状況を話せない人もいる。“うちは子供がいなかった”ということにして、自分のなかに抱え込んでしまったり…。となるとやはり心のケアができる人や知恵が必要なんだと思います。たとえばよく言われるのは1カ月に1回必ず来て話相手になるということ。でもそんなに時間の余裕のない方の場合は1回しか行けなかったけど、その後ずっと文通を続けるというのは結構いいみたいです。おじいちゃんやおばあちゃんはネットなんて知らないしできない。手紙のほうがうれしいんです。どこかで自分のことを思ってくれる人がいるという状況を作っていくことが大事なんだと思います。あとカメラマンの方。家をなくした人は1枚も写真を持っていないので、撮って送ってあげるとものすごく喜ばれます。プロのカメラマンが撮った写真って明らかに違うじゃないですか」
今後はどういった活動を?
「来年度から防災教育ということをやっていきたいと思っています。去年の11月に佐賀県の中学校、気仙沼の商店街、石巻の小学校の三者をネットでつないでウェブ会議みたいなことをやったんです。そのとき佐賀県の中学校の道徳の教育で震災体験を話すことで、思いやりとか優しさとか、そういうものを身につけてもらおうという授業をやりました。災害って人間力を高めるんです。ボランティアに駆けつけることもそうだし、自分の持っている資源を誰かと分け合うことって、決断力と優しさがないとできないと思うんです。被災地の人たちはそういう体験をしてきた。その人たちが自らの体験を発信することで、心の備えであったり、日ごろからみんなと仲良くしていくことが緊急時にいろんなことが円滑に進むことにつながるということを伝えることができる。防災教育という形で人間力、人間性を高めるような教育ができるんじゃないかと思って、教育関係者の人とこれをカリキュラムにできないか探っているんです。そしてそれを石巻の子供たちに語ってもらいたいんです。それは子供たちの心を見つめ直す作業になるし、子供たちを強くすることにもなる。東北はこれからリーダーを育てていかなければいけない。その手助けになるのではと思っています」
生の声を聞くと驚くことばかりだ。住民の声を反映せず、被災地に本当に必要なものという視点から政策が遂行されなくなっているという事実。東京にいると「小さなこと」としか思えないことが、被災地では「大きな力」になるということ。改めて被災者の身になって考えなければいけないと実感させられる。
(本紙・本吉英人)