『黒蜥蜴』に出演の中島歩「新しい自分を発見したい」

美輪明宏主演『黒蜥蜴』で舞台初挑戦

現在、東京・銀座のル テアトル銀座で絶賛上演中の舞台『黒蜥蜴』。1962年の初演から、いまだに色あせない斬新さを持ち多くのファンを持つ同舞台に、オーディションで約200人の中から新人俳優の中島歩が大抜擢。美輪との稽古秘話ほか、舞台にかける意気込みを語る。

 美輪明宏といえば、昨年の紅白歌合戦の舞台で圧巻のステージを披露。客席のみならず、テレビを見ている視聴者にも強烈なインパクトと圧倒的なオーラで、その存在感をしらしめた。そんな美輪が演出・主演を務める舞台『黒蜥蜴』は、原作・江戸川乱歩、脚本・三島由紀夫という日本を代表する作家による伝説の舞台。1968年に美輪が主演以来、何度も再演された同作品に今回出演する新人俳優・中島歩に、美輪との共演について話を聞く。

「オーディションでは、美輪さんと本読みをしました。お会いしてすぐに役として会話をしていたので、美輪さんのものすごい存在感は感じましたが、ガチガチに緊張もしませんでした。自分では、なぜ選ばれたのかは分かりませんが、何もできないので稽古では美輪さんに手とり足取り本当に細かくご指導いただきました」

 同作品は2003年、05年、08年と高嶋政宏が明智小五郎役を務め大絶賛を得ている。そんな評判の舞台に出演するプレッシャーはないのか。

「この作品は、様式美にあふれ、日常では使わない言葉や普段ではやらない仕草が多くあります。自分の表現ひとつひとつに美輪さんは、きっちりとセリフや動きを付け演出していきます。ですから、前回と同じではなく自分なりにどう表現するかという事に集中しているのでプレッシャーというのは考えないようにしています…。よく美輪さんが仰っていたのは、段取りでやるなということ。ですから、前回の反映もありますが、新しいキャストとしてゼロから組み立てていかなければならないこともたくさんあるので、あまり気にはしていません」

 中島演じる雨宮潤一は、黒蜥蜴に熱い思いを寄せるが、そっけなくされて、苦悶する役だが…。

「その雨宮と黒蜥蜴の関係っていうのは、実は僕と美輪さんの関係に近いかも。稽古で美輪さんに認められたいという気持ちも強かったし、明智小五郎役の木村彰吾さんは黒蜥蜴と一緒のシーンが多くて、稽古を美輪さんにつけてもらっているのを見て、もっと俺にも稽古をつけてほしいって嫉妬してました。意図的にそういうふうに思って、役作りをしようというのはありましたが、その役作りさえも美輪さんに認められたいという思いでした。それから、雨宮ってすごいピュアな人なんです。とても純粋で、あまり器用に生きている人ではない。でも、頑張って黒蜥蜴の美意識に近づこうとしている。本当は普通の人間で、普通の幸せを求めているのに、圧倒的な美を持つ黒蜥蜴に出会ってしまって、人生が変わってしまった。呪われたように黒蜥蜴に惹かれているけれど、それが最後に溶けていくというか、自分が求める幸せが見えていくところをうまく表現できればと思って稽古をしました」

 低い声でひとつひとつ言葉を選びゆっくりと話す中島だが、クールな見た目とは裏腹な意外な趣味を明かす。

「趣味は落語です。大学4年間落研に所属していました。その時は、ペラペラ喋っていました。着物を着て、元気よくはっきりと江戸弁を」

 ペラペラと落語をする姿は全く想像できないが、落語家を何人も輩出している名門・日芸の落研出身というからかなりの本格派だ。

「もともとお笑いが大好きで、高校生の時から漫才やコントをやったりしていました。で、大学に入った時に、人を笑わせるサークルだよって、勧誘されて(笑)。入ってみたら漫才やコントではなく、伝統的な落語をやるところだった。週3回がっつりと厳しい稽古があって、OBには高田文夫さんや立川志らくさん、春風亭一之輔さんなどがいらっしゃいます。もし落語家の役とかいただけたら、ぜひやりたいです。風間杜夫さんは、落語の独演会もやられているので、役者でありながら落語をするのも興味があります。落語も自分を使った表現のひとつですから。また落語もお芝居も自分じゃない誰かになって、その中でドラマが起きるという面では同じだと思います。演じている中で、お客さんにすごく嫌われても、それはそれで勝ちというか、演者にとって人の心を動かすというのは例えそれが嫌いという負の感情でも、いいことだと思います。それが落語とお芝居の共通点かな、と。相違点は、お芝居では自分では思いつかないようなことが、他者と掛け合うことで生まれたりすることが、とても面白いです。相手からセリフをもらうことで、自分ではできないことや作り得ないことが、できてしまうんです」

 演じることに対し、ストイックに挑戦している中島の今後の夢は。

「まず今回の舞台を一生懸命務めること。舞台は美術なども含めとてもきれいで豪華なので、それを見て楽しんでいただきたいです。そしてとにかく美輪さんの圧倒的なお芝居、三島の書く美しい言葉、比喩的表現など、この作品全部を包む耽美な世界を感じていただければ。1934年に発表された作品ですが、セリフはほぼ変えていないのにちっとも古臭くない。すごく美しい舞台になっています。また、自分個人としては、主演をはれる俳優になりたいです。色々な演出や、舞台に応えられる存在。新しい人に出会うたびに、新しい自分が発見できると思うので、さまざま作品、演出家、舞台、監督、役者さんとお仕事をしていろんな自分を発見していきたいです」
(本紙・水野陽子)

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『黒蜥蜴』
【公演日】5月6日(月・休)まで【会場】ル テアトル銀座【料金】S席1万1000円、A席7500円、BOX席(2名)2万円(全席指定・税込)【問い合わせ】パルコ劇場 TEL:03-3477-5858