業界人も通ってる!? ライブイベントで賢さをちょい足し part 1
楽しんで賢くなれるライブが人気だ。ここでのライブとは音楽やお笑いではなく、“トーク”のライブ。時事ネタや思想など硬派な話題から、文化や芸術、さらには文房具やお受験まで、“トーク”を聞いて新しい扉を開いてみませんか。
トークライブハウスの先駆けロフトグループ
誰でも一度は「トークライブ」という単語は聞いたことがあるだろう。でも実際に足を運んだことがある人はどれくらいいるだろうか。
もともとこのトークライブという形式を生み出し、ここまではやらせたのはロフトグループ。ロフトは1976年に、ミュージシャンが音楽を演奏するいわゆるライブハウスとして誕生。日本の音楽シーンで活躍する多くのミュージシャンを輩出した。
その後、1995年にトークライブをするライブハウスとして歌舞伎町にロフトプラスワンを開業。以降、新大久保にネイキッドロフト、阿佐ヶ谷に阿佐ヶ谷ロフトAを開業している。いわばトークライブハウスの先駆けだ。
各箱ごとに特徴があって、なかでも文化系のイベントが多いのが阿佐ヶ谷ロフトA。ここでは3人のブッカーがいて、持ち込み企画もあるものの、1人月15本ほどを企画しているという。常にさまざまなところにアンテナを張らねばならず、その仕事は大変だ。しかしブッカーならではの楽しみもあるという。
「小さいころから好きだった魔夜峰央さんのパタリロシリーズが100冊になったときに、ダメもとで“100冊記念やりませんか”ってお願いしましたら、やっていただけることになりまして、今では年に1回出ていただいています。ブッカーになると好きな人に会えるかもしれませんよ(笑)」と言うのは阿佐ヶ谷ロフトAでブッキングを担当する児玉さん。
ではトークライブに来るお客さんというのはどういう人が多いのだろうか。
「情報に目ざとすぎる人。メジャーなものに満足できない人が、ここでしか聞けない話を聞きにきている、ということだと思います」
実際に足を運んで気づいたのは、テレビなどで有名な人が出るからといって必ずしもお客さんがたくさんくるわけではないこと。
「ニコ生の有名人といった、世間からすると素人になる人のイベントが即完したり、200人くらい押しかけることもありますね。あとは会場でしか話せない話をする人のイベントには多くのお客さんがいらっしゃいます。イベントによってはU STREAMで流すようなこともありますが、現場のグルーヴ感というものがあって、客席にいないと分からないものもありますので、ぜひ会場に来てほしいですね」
ちなみに出演者のギャラは入場料とお客さんが飲食した売り上げから一定のパーセンテージで支払われるという。なので「よく聞いて、よく食べて、よく飲む」と出演者の方々に喜ばれるかもしれない?
独自のスタンスのB&B
一方、ライブハウスという形態とはちょっと違うが、本屋さんでありながら毎晩のようにトークライブを開催しているスペースもある。それが下北沢に2012年7月にできた「B&B」だ。本屋ということもあって当初は出版記念イベントのような形で著者がトークをするイベントが多かったのだが、最近はそれにとらわれずにさまざまなジャンルのイベントが行われている。
「お客さんは30〜40代の男女半分ずつくらい。下北沢は若い人が多い場所なので、ここにくると落ち着くという人が多いようです」とは同店の寺島さん。
当初はサブカルっぽい軽めのイベントもあったようだが、客層的に真面目な企画を望む人が多かったようで、今では自然とそういうイベントが増えているという。また下北沢在住の吉本ばななと藤谷治のイベントはほぼ即完。ミュージシャンの曽我部恵一やbar LADY JANEのオーナーである大木氏のイベントも人気というあたりは下北沢ならではという感じ。
しかしトークライブハウスという場所とは根本的に違うのは、ここはあくまで“本屋さん”であるということ。
「“これからの街の本屋”というコンセプトがあるんですが、オーナーは、“イベントも本だ!”っていうんです。“棚を編集するのと同じようにイベントを編集する”ということなんですね」
ちなみにライブ時に限らずここでは本を読みながらビールやコーヒーが飲める。
ドリンクもトークライブも本屋を成り立たせるために考え出されたことで、決してビールを飲みながら本が読める本屋を目指したわけでもなく、本屋をやっていくために何をするか?ということを考えた時に出されたアイデアがドリンクであったりトークライブであったりしたという。
「なんでもやってみる」というアグレッシブなチャレンジ精神のもと、今後はトークライブに限らない活動も考えているというが、独自のスタンスでのイベント作りは他の箱とは一線を画しており、ツイッターやHPは常にチェックしておきたい存在だ。
演者側にもトークライブについて聞いてみた。
『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)の著者であるネットニュース編集者の中川淳一郎さんは阿佐ヶ谷ロフトAとB&Bの常連出演者。
2010年に阿佐ヶ谷ロフトAで津田大介氏と初めてトークライブを行って以来、多くのイベントに出演。レギュラー化しているものも含め、常に100人超のお客さんを集める人気イベントばかりだ。お客さんが増えてきたら「もっと大きな場所で」とか「ニコ生で中継して」といったようにより多くの人に見てもらいたいという考えもあろうが、中川さんたちにそういう考えは一切ない。
「昔はネットで流したこともあります。でも1500円を払って来ているお客さんを優遇しようよってことで僕たちはやめたんですよ。それにライブスペースというのは放送禁止用語があってもいいと思っているんですよ。それがニコ生などに流すことによってそがれるのは良くないと思っているんです。そういう自由な発言がなくなっちゃうのは嫌だから僕はニコ生に流すのは反対なんですよ」
中川さんのライブは時に心地よく時にヒヤヒヤさせられる暴走感が漂う。
「阿佐ヶ谷ロフトAってものすごく居心地がいい。お客さんも場の空気というものを求めているんですよね。以前、阿佐ヶ谷ロフトのことよく知らないで出てきて、場の空気にそぐわない発言をした出演者に、“ばかやろう! 阿佐ヶ谷ロフトAをなめるんじゃない”って怒ったこともあります」
阿佐ヶ谷には阿佐ヶ谷のB&BにはB&Bの空気がある。
「阿佐ヶ谷は僕にとってのホーム。ホームということが何を意味するかというと、何を言っても許される場所ということなんですよ。B&Bはエロいことを言っちゃいけない場所です。箱それぞれに空気があって、B&Bにはカルチャー志向というものがあるわけですから、あまり下品な話はしちゃいけない。来るお客さんもカルチャー志向のお客さんが多いわけです。そこをわきまえないと“うちには要りません”となっちゃう。だから僕も場はわきまえて発言していますよ」
トークライブの不思議なところとして、知名度がある人がたくさんお客を呼べるかというとそうではないところ。
「多分本音を語る人かどうかという印象もあると思います。テレビなどできちんと大衆のことを考えて発言しているような人は、阿佐ヶ谷でも本音は語らないだろうという先入観があるんだと思うんです。どうせ無難なことを言うんだろうなって」
中川さんは7月にまた新たなメンバーでライブを行う。
「僕とやまもとさんいちろうさんに、『ニューズウィーク日本版』の元編集長でジャーナリストの竹田圭吾さんの3人で2013年のインターネット事件簿の半年間を振り返る『オヤジ3人が語るネット珍騒動の夕べ』というとんでもないイベントをやります。竹田さんは僕らが責任を持って暴走させますから」
このライブではまだ発表できない爆弾ネタも用意されているようなので、要チェックだ。