監督・福田雄一 × 主演・堤真一が語る『俺はまだ本気出してないだけ』
ルックスから生き方まで、すべてがダメな中年男・大黒シズオ42歳。唐突な思いつきで漫画家を目指すが…。『コドモ警察』シリーズの福田雄一監督が、青野春秋の人気漫画を映画化。かつてない強烈なダメダメ主人公を演じるのはなんと“カッコいい男優”代表格の堤真一!
モテ俳優・堤真一が“ダメなオッサン”大黒シズオ(42)になった理由
福田監督(以下:F)「さすがに自分でも“この役を堤さんに”と直接お願いするのは怖かったんですよね(笑)。2割も期待していなかったんですけど“やってくれるらしい”と聞いてびっくりしましたよ(笑)」
堤真一(以下:T)「決まった時は僕も驚きましたよ(笑)。渡された原作を読んでみたものの“この役は僕ではないのでは”としか思えなかったし。とりあえず原作の青野春秋さんに打診してみていいかというので、シズオ役が僕ではダメだろうと思いつつ“いいですよ”と返事したんです。そうしたら青野さんからOKが出て(笑)」
F「僕は青野さんも絶対にOKを出すという自信がありました(笑)」
T「僕は絶対に出ないと思っていました(笑)。しかも僕のスケジュールだと撮影できるのが2年後で、さすがに2年も待ってもらえないだろうと思ったら待つと言って頂いて」
F「僕もスケジュールのことを聞いたときには絶望的だと思いました。人気マンガ原作の映画化で2年も待ってもらえることはまずないですから。それが、青野さんがシズオ役はぜひ堤さんにとおっしゃって。シズオ=堤さんのイメージが、僕と原作者さんにはハッキリと見えていたんですよね(笑)」
T「そこまで言われたらもうやるしかないですよね。イメージなんて全然見えていなかったけど(笑)」
F「“似ても似つかない”イメージの役者さんに演じてもらい、さらに面白くしてもらうというのも、僕が役者さんと仕事をするときの喜びの1つなんです。今回も、シズオと似ても似つかない堤さんが演じることでさらに面白くなる、ということを見せつけたかった。原作と似たイメージの役者さんに出てもらって“原作の雰囲気出てたね”と言われるのが一番嫌なんですよ。全然違うけどむしろ面白いと言われなくては、映像化する意味がないと思うんです」
T「なるほどね」
F「しかも僕には勝算がありましたしね。一緒に食事をしたとき、パブリックイメージとはまったく違う堤さんの“ダークサイド”を見てしまいましたから(笑)」
T「あのとき自分としては、普段と同じ感じでちょっとしたオモシロ話をしただけなんだけど…(笑)」
F「あの日、堤さんと初めて一緒にお食事するというので、僕はガチガチに緊張していたんです。それが2時間後には、堤さんがただのオッサンに見えていました(笑)」
T「後輩の俳優たちと飲んだ後も同じような事を言われます(笑)」
F「撮影中も、堤さんは“僕に一番遠い人物だからよく分からなくて”と言っていましたけど、僕にはそれ、ネタで言っているのか本気なのか分かりませんでしたね(笑)。みんな、堤さんはシズオから最も遠い俳優だと思うでしょうけど…」
T「僕もそう思ってましたよ(笑)」
福田監督も大慌て!? 堤真一が100%“シズオ”になった瞬間
T「今回ほど、自分は役者に向いてないと思ったことはありませんでしたね。もう、監督の言うとおりに演じるしかなかったですから」
F「僕の場合は、実際にシズオと通じるものがあったので。僕も普段あの恰好ですし、ああやってテレビを見てますし(笑)。原作で具体的に描かれていない部分は“自分がいつもどうしてるか”で考えていたんです」
T「寝転がってゲームするシーンで“僕はいつもこうやっているので”と監督に言われたものの、僕は肉があまり付いて無いから全然監督みたいにできなくて(笑)。終始、監督が“OKです!”と言ってくれても、僕は“本当に大丈夫かな”とずっと思っていましたよ」
F「撮影初日、堤さんのシズオが完璧だったので、僕はプロデューサーに“この撮影、勝ちましたね!”って言ったんですよ(笑)。でも堤さん、僕の言うままやっていただけとか言いつつも、途中から“シズオ・スイッチ”が入りましたよね(笑)。シズオのバイト先のシーン。僕の台本ではバイト仲間から“ポテトやれ”と言われて“はい!”と言うだけだったんだけど、堤さんは“イエッサー”ではどうかと(笑)。それに僕は、ジュースを入れながら踊ってくれとも言ってないし、“ピロピロ飲み”とか、僕の引き出しには絶対無い(笑)!」
T「あのとき、ファストフードの厨房に初めて入ったりして、なんか楽しかったんでしょうね、僕(笑)。これでいいんだ、と思えるようになってから、シズオを演じるのがけっこう楽しくなってきたんですよ」
F「でも僕は、イメージと違う役を演じてもらいながらもその役者さんらしさをわずかに残しておくのがポリシーでもあるんです。だから堤さんのかっこよさも何%か残しておきたかったんだけど、それが、宝くじ売り場で並ぶシーンで、ゼロになった瞬間があったんです(笑)。いかん、堤さんが完全にシズオになってしまった!と、慌てましたよ(笑)」
T「ははは(笑)」
人間誰しも“ダメ”な部分がある…愛される“ダメ大人”に学べ!?
F「僕にとっての愛すべきダメ人間は、仕事はこなすのに人としてちょっとダメな人。まさに、堤さんはいい仕事をするかっこいい人なのに、みんなでお酒飲んでいるとオッサンになっちゃう(笑)」
T「僕が面白かった福田さんのダメなところは“監督じゃない”ところ(笑)。芝居の指示をした後、どんな画にするか決めないといけないのに僕らとおしゃべりしてるので、不思議に思って聞いてみたら “僕、カット割りできないんですよ”って(笑)」
F「正直に言うと、脚本を書いているときは仕事をしているという意識なんだけど、現場にいるときは遊びに来ている感覚なんですよ」
T「確かにそう見えますね(笑)」
F「念願の役者さんが僕の書いた本を演じてくれて、撮影が終わったらみんなでご飯行きましょう!って(笑)。僕にとって監督業は、台本を書いたご褒美なんです」
T「まあ僕自身も、役者という世間から少しズレた仕事をしているので、実際に目の前にシズオがいても何も言えないですね。殴りたくなるかもしれないけど(笑)」
F「堤さんが演じたおかげで、本気で説教したくなるのに、なぜか憎めない主人公になりましたね。基本的には“シズオみたいになっちゃいけないぞ”という戒めの映画です(笑)」
T「僕は、シズオから学ぶことは何も無いね(笑)!」
シズオのハマり具合は堤×福田の才能ゆえか、はたまたダメ要素ゆえ…!? 笑いあり教訓あり、さらに感動ありの“ダメ大人”応援ストーリー。
(本紙・秋吉布由子)
監督:福田雄一 出演:堤真一、橋本愛、石橋蓮司、生瀬勝久、山田孝之他/1時間45分/松竹配給/6月15日より全国公開
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