FUJI ROCK FESTIVAL’13 REPORT
「カラオケ、カモン!」
フジロックはみんなで創る

 日本の夏フェスの代表格のひとつ、フジロックフェスティバルが7月26〜28日に、新潟・苗場スキー場で開催された。場所柄、例年変わりやすい天候に悩まされるが、今年は3日間通して、雷、豪雨に見舞われるというベストとはいえないコンディション。それにも関わらず、25日の前夜祭を含み述べ11万1000人が来場し、ナイン・インチ・ネイルズやビョーク、ザ・キュアーらヘッドライナーを筆頭とした国内外のアーティストのパフォーマンスに酔いしれた。

豪華なラインアップのなかでも特に注目を集めたのが、オリジナリティにあふれ芸術的なライブで知られる、アイスランドの歌姫・ビョーク。中日のヘッドライナーとして登場した。

 午後8時すぎ。降り続いていた雨は上がり暗闇に包まれたグリーンステージに、その人は登場した。ステージ奥には、オーデイエンスの頭上、厚い雲の上に広がっているであろう、満天の星空を思わせるようなキラキラとした映像が映し出され、バンドや女性コーラス隊が登場するたびに歓声が上がる。最後に、独創的なドレスを身にまとった小柄なビョークがトコトコとステージに現れた瞬間、歓声は悲鳴に似たようなものになった。音楽と自然、そしてテクノロジーを融合させたプロジェクト『バイオフィリア』をタイトルにした新作を携えてのライブ。スクリーンには地球や環境の躍動を感じさせる映像が次々に映し出され、ビョークのパフォーマンスもそれに呼応する。エネルギッシュに、ステージを自在に移動しながら、腰のあたりで手をくるくると動かしたり、カシャカシャといったサウンドにあわせて両手を頭上で動かしたり。初めて音楽を聞いた子どもが自然と音楽やリズムに合わせて体を動かすようなピュアさを感じるものだ。そんな彼女を支えるのがバンドであり、10名超の大所帯の女性コーラス隊。コーラス隊はいわゆるハーモニーを作るだけではなく、不思議なダンスやちょっとユーモラスな動きも交えて、ビョークの音楽世界を表現していた。この日は、『バイオフィリア』収録曲を中心に、『ワン・デイ』や『ハイパー・バラッド』、そして『アーミー・オブ・ミー』など彼女のソロキャリアを代表する楽曲で構成。映画を見ているような景色の広がる壮大なナンバー、ダンサブルな曲をうまく配置したセットだった。「あともう一曲やるわ、みんな歌って! カラオケ・カモン!」のビョークのMCは、熱いオーディエンスをさらに加熱させた。オーデイエンスは「ビョークやばい」「かわいい」、「やっぱり、最高だった」などと絶賛していた。

 この日は、カール・ハイドが世界を席巻するアンダーワールドではなくソロアーティストとして登場。バンドメンバーには実の娘もいたサプライズも。ライブは、サウンド重視でありつつ、より歌唱の役割の大きい内容。キャリアを通じて、アートと音楽をつなぎ合わせてきた彼の変化や新たな一面を感じさせた。

 世界中のアーティストが自身のライブを聞かせた3日間。本能を揺さぶるリズム、クレバーな構成で頭をしびれさせるアーティスト、そして心を射抜くメッセージを体感するために、雷雨のなか11万超が苗場に駆け付けた。アーティスト、観客、そしてスタッフ、全員で創り上げたフジロックだった。

どしゃぶりの雨を吹き飛ばした音楽のチカラ

 今年のフジロックは例年以上に変わりやすい天気に悩まされた。レインコートを着たり脱いだりのオーディエンスはもちろん、ステージ上のアーティストのパフォーマンスに影響を与え、ときには神々しいまでの演出になった。

 初日、メインのグリーンステージのトリを飾った米バンドのナイン・インチ・ネイルズは、カリスマティックなライブで知られるが、悪天候が彼らに味方した。轟く雷鳴、叩きつけるような雨が、観客の興奮度をさらに押し上げ、彼らの魅力を最大限に引き出しているようにも感じられた。その証拠に、強い雨に打たれながらも、観客の表情はキラキラしていた。

 音楽のチカラは太陽をもひっぱり出すとばかりのステージを見せたのが、加藤登紀子&シアターブルック—半世紀ロック。シアターブルックが『ありったけの愛』を歌い、「俺たちの加藤登紀子!」と呼びこまれた加藤が『パワー・トゥ・ザ・ピープル』の間奏で厚い雲を仰いで「太陽、来ーい!」と叫ぶと、次の曲が終わるころにはざんざんぶりだった雨がやんだ。加藤のいう「ピープル・パワー」の勝利か。

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トークにワークショップ! 楽しさがぐんぐん広がる

 フジロックフェスティバルの醍醐味は、アーティストたちのライブだけではない。会場へのアプローチ、ライブを見るためのステージ間の移動さえも楽しんでしまえるような仕掛けがある。

 例えば「ボードウォーク」。会場のなかの森林のなかをぬうように作られていていて、ボードの多くにはさまざまなメッセージが書かれていたり、プロ顔負けのデザインが施されたものあって、つい下を向いたまま歩いてしまうようなこともしばしばだ。途中、ステージも用意されていたりするのもおもしろい。

 さまざまな企画も行われている。そのなかでも人気を集めたのが、ジプシー・アバロンのステージで行われた「アトミック・カフェ トーク」。メディアアクティビストの津田大介をホストに、日替わりでツイッターなどで話題を集めるもんじゅ君、加藤登紀子と佐藤タイジ、さらには作家・思想家の東浩紀も登場して原発やエネルギー問題についてトーク。どの回にも多くの人が集まり、少しだけシュールなコントや熱いトークに耳を傾けた。また、「NGOビレッジ」では、スギやブナの木材を自分で切ってコースターを作ったり、ノートを作るワークショップなども展開されていて、大人も子供も一緒になって楽しんでいた。

 そのほかにも、山の傾斜をうまく利用してさらに充実したキッズ向けのスペース、大道芸など、さまざまなスタイルのエンターテインメントを体感できた。