舞台『激動 -GEKIDO-』俳優・別所哲也 インタビュー
「すごくシュールで、アーティスティックで、ドラマティックな舞台になりそうですよ。実際、僕もどんな舞台になるのか分からなくて楽しみなんです(笑)」。
俳優・別所哲也がそう語るのは、8月23日から新国立劇場で上演される舞台『激動 -GEKIDO-』。清朝の王女として生まれながら日本人の養女となり、男装の麗人としてもてはやされるが最後にはスパイとして処刑された、まさに激動の運命を背負った川島芳子の人生を描く物語。
「歴史的事実をベースにしながらも、とてもミステリアスでドラマティックな要素にあふれています。芳子の人生そのものがミステリアスでドラマティックでしたからね。実は中国の奥地でおばあさんになるまで生きていたとか、養父・浪速と恋愛関係にあったんじゃないかとか、事実かどうか分からない伝説的なエピソードも実際、多く残されている。そんな題材なので本当にドラマティックな舞台になると思うんですよ」
川島芳子役を演じるのは今回が舞台初主演となる水川あさみ。その養父となった日本人・川島浪速を別所が演じる。
「水川さんは芝居ではすごく集中力があって、いつも場を明るくしてくれる人。彼女を取り巻く何人もの男たちとの関係をそれぞれ表現しなければならないので、すごく作業の多いハードな役どころだと思いますけど、主演としてみんなを引っ張ってくれています。物語では、ある事件をきっかけに芳子が変貌するんですが、その前後の変わりようは大きな見どころです」
浪花と芳子との間に渦巻く複雑な感情を、別所と水川がどう演じるかも楽しみだ。
「浪花という男は、当時の国際人で、外交の最前線にいたエリート。当時、海外に留学したり働いていた人の多くが国から派遣されていました。森鴎外や夏目漱石も、官費でヨーロッパに行ったエリートでしょう。今と浪速の時代の国際性とは明らかに違いますよね。今のように個人の夢を追って海外に行ってみたというのではなくて、ベースに国を背負っている部分がある。そんな覚悟を持って生きていた浪速をどう演じるか、演出家のダニエルとも話しながら作り上げています」
この舞台を演出するのは『マンマ・ミーア』の全米ツアーなどを手掛けたブロードウェイ期待の演出家、ダニエル・ゴールドスタインだ。
「僕がこの舞台に興味を持った理由の一つがダニエルの存在です。彼はブロードウェイでミュージカルからストレートプレイまでをこなす、アメリカでも注目の演出家ですからね。一緒に舞台をやってみたいという思いがあった。どんな演技論を持っているのか、どんな演出をするのか、すごく興味があったんです」
実際、彼の演出にはとても刺激を受けているという。
「舞台背景は、どちらかというと抽象的で全体的にアーティスティックな感じです。物語の演出も、単に歴史の流れを追っていくというより、人物の思いに重ねて時空を飛び越えていくような...ちょっと口では説明しにくいですけど(笑)。ダニエルいわく、状況を分かりやすく伝える演出よりも、そうしたほうが作品の本質が逆に際立つ、と。なるほどと思いましたね。確かに背景をしっかり作りこむと、情報を補完してくれるので、役者の芝居を助けてくれるし見ている観客も分かりやすい。でもイメージが限定されるというデメリットもあるんです。今回は、靴を脱ぐか脱がないかで屋外か屋内かを表現したり、人物の立っている位置の距離感とか体の向きで関係性を表したり。そうすると見ている側は理屈ではなく直感的に状況を理解する。そんな舞台なんですよね。こういう感覚を欧米の演出家はとても大事にしますね。僕もそういうの、けっこう好きなんですよ。それが見事に決まって観客にも伝わると、一体感が出て役者も観客も気持ちいいというか、演劇的カタルシスを感じることができるんですよね」
数々の舞台に立ってきた別所だが、彼が舞台を愛する理由とはどこにあるのか。
「もともと僕は舞台役者として俳優デビューしたんです。今では映画やドラマもやらせて頂くようになりましたけど、舞台の面白さにはずっと魅せられ続けています。一番の魅力はやはり、舞台がお客さんと一緒に作るものだというところでしょうか。どんなに稽古で作り上げても本番をやるまでは、その作品は未完成なんです。舞台とは、観客の前で演じて初めて完成するものなんですよね。理論立てて計算して、稽古して作り上げたものを、本番で超越することがあるんですよ。しかも毎回どんなふうに完成するか必ず違います。その日の観客と、幕が開いて降りるまで、一緒に演劇的な旅をする。それが舞台の醍醐味の1つだと思っています。あと、若いころより芝居の引き出しが増えたというか、テクニック的な面白さもだんだん分かってきた感があります。若いときは、ほとばしる自分の感情をぶつける楽しさが先行しがちなんですけど、ほんのわずかなそぶりで観客を"ドキッ"とさせる、そういう技術を経験豊かな役者さんたちはたくさんお持ちですね」
俳優として活躍する一方で、国際短編映画祭『ショートショート フィルムフェスティバル&アジア』を主宰する別所。芳子や浪速の時代とは違う、楽しさに満ちた異文化交流を、ショートフィルムを通して行っている。
「近年特に、来日する海外の人たちは、日本で何がしたいのかはっきりしている人が多いですね。映画祭で来日する監督たちもそうですけど、目的意識をしっかり持って、すごく細かくリサーチして来る。一方で、行き当たりばったりでいろいろな体験がしてみたいという場合は、本当にノープランでとにかく歩き回る。目的を果たすことと、想定外の発見や刺激を受ける面白さ、どちらの楽しみ方も知っている人が多い。ダニエルもそうなんですよ。ダニエルは単純に日本が好きみたいで、寿司を食べに行ったとか、巨人戦を見に行ったとか、日本を満喫してますよ(笑)。すごいラーメン好きで、日本滞在中に目的の店を網羅するつもりらしいです。先日もラーメンについて30分くらい話していて、僕らは"ダニエル、そろそろ稽古を..."って(笑)」
最後に読者にメッセージを!
「川島芳子という女性の激動のドラマに浸ることもできるし、歴史の一幕に触れることもできる。また、桐山漣くんをはじめとするイケメンも揃っていますので、いろいろな人を"ドキっ"とさせる、見ごたえある舞台になると思います!」
(本紙・秋吉布由子)
撮影・蔦野裕
『激動 -GEKIDO-』
演出:ダニエル・ゴールドスタイン 脚本:横田理恵 出演:水川あさみ、別所哲也、桐山漣他
【公演日程】8月23日~9月2日【チケット】S席8500円 A席6500円 チケットぴあ、イープラス、ローソンチケット他にて発売中
【公式】http://gekido2013.exblog.jp/