石井光太原作×村岡ユウ作画 『葬送』で改めて震災を考える
被災した岩手県釜石市の遺体安置所で働いた女性の話をもとに漫画化した『葬送』(秋田書店 600円税別)が現在発売中だ。『遺体−震災、津波の果てに』で知られるノンフィクション作家・石井光太の原作で、何もかも奪い去った津波の猛威を目の当たりにしながら、懸命に生きた人々の様子が力強いタッチで描かれている。この話の主人公は、釜石市で生まれ育ち、そこで多感な青春時代も過ごした菊池貴子さん。彼女が、失恋、結婚、別れ、悲しみといった思い出のたくさん詰まった釜石に、震災当時、何を見て、何を感じたかが、1コマ1コマからリアルに伝わってくる。そして、私たちは、そうした現実を目にしたとき、何を感じ取ることができるだろう。
石井は「空前の大災害の中において、昨日まで普通の人だった人たちが遺体安置所に集まり、自分のできることを精いっぱいして町を救おうとする姿があった」と当時を振り返る。
そして「こうした人たちの真摯な姿勢と善意がいかにして町を救ったかということを、あの現場にいなかった人たちに伝えたいと思った」と語る。
菊池さんが地元で歯科助手として働いているときに震災が起き、奇しくも遺体安置所が置かれたのが母校の二中だった。そこに歯形で遺体の身元を明らかにするために、歯科医の勝先生とともに急行。変わり果てた亡骸と行方を案じる家族との間で自分のすべきことをひたすら行っていく。
作画を担当した村岡ユウは「一個人の人生でも、人の弱さと強さを両方描けば普遍的な物語として伝えられるはず。震災後1年以上たったからこそ生まれる言葉や感情も描ければと思いました」と原作者とは違う視点で話した。
震災以後、私たちは「絆」や「がんばろう」といった言葉であの凄惨な出来事で負った心の傷をやわらげようとした。しかし、この漫画から伝わるのは、すでに絆を確かめ合い、もうこれでもかと思うほどがんばった人たちの姿。その時、「どうか忘れないでください」という彼女の言葉が心を動かす。