SPECIAL INTERVIEW 監督・松本人志×主演・大森南朋
ハリウッド・リメイクが決定している『大日本人』、素人主演で世界を爆笑&感涙させた『さや侍』…。唯一無二の作品を次々と世に送り出してきた松本人志監督が、
最新作『R100』でまたもや世界を翻弄する! 主演・大森南朋を筆頭に超豪華キャストを揃え、禁断の“SとM”に挑む!!
監督は“S”で俳優は“M”!? 松本と大森の“もう一つの顔”
こんな映画は見たことがない。そして、こんな映画を作ることができるのはこの監督しかいない! 一見、どこにでもいる実直な会社員・片山。しかし彼には、謎のクラブ・ボンデージに入会したという秘密があった。片山の日常に唐突に現れては、禁断の快楽をもたらす美女たち。しかし美女たちの出現は、しだいに悪夢めいてきて…。
冒頭、映画はクラシック映画のような、古めかしくも意味深な映像で幕を開ける。「緊張感を持たせたいというか、コメディーっぽく見られる要素はできるだけ排除したいという思いがあったんです」と松本監督は語る。
松本監督(以下:松)「主人公の片山という男が謎の世界に入っていく…ある意味オカルトなんですよ。そこへ持っていくためには、時代背景も少し昔で、携帯もパソコンも登場しない。映像の色味を抜いたのも、コメディー色を薄れさせて怖さを増すためです。独特な世界観が生まれるかなと思ったんですよね」
まさに独特。現実と非現実、表と裏、“SとM”が交錯する、かつてないファンタジー・エンターテインメントなのだ。そのインパクトは、海外でも大注目を集めた。第38回トロント国際映画祭『ミッドナイト・マッドネス部門』で正式上映を行った際にも、文化の違いを超えてトロントの観客たちは松本ワールドに大盛り上がりだったという。
松「今回僕は、男のずるさというか、男の二面性みたいなものを描いてみたいなと思ったんですよね。もしかしたら女性もそうなのかもしれないけど、自分は、男ってどこかずるい生き物だなと思っていてね。家族も大切にしているんだけど、同時にその一方で自分の趣味とか快楽を求めている生き物なんじゃないかな、と思うんですよ」
主人公・片山は、会社でも実直に働き、家族との絆も大切にしながら生きる男。しかし彼には、誰にも言えないもう1つの“顔”があった。その二面性を見事に演じたのが、個性派俳優の大森南朋だ。そういうこともあるかもしれない…この状況において観客にそう思わせるリアルな演技力と存在感はさすが。
大森南朋(以下:大)「僕が実際にあんな目に遭ったらすごく困りますけど(笑)。想像しうるに、片山はおそらく、その手の店にもいろいろ行っていただろうと思うんです」
松「でも、それでは我慢できなくなったと(笑)」
大「それでたどり着いたのが、あの店なのではないか、というのが僕の想像なんです。淡々と、粛々と生きてはいるけど、ああいう趣味を持っている。まあ、そういう人もいなくはないと思うので、それはそれで、受け入れて演じていました。そういう可能性はあるかもとは思いましたけど、でもやっぱり自分はここまでドMではないんだなということに気付きました(笑)。ただ、あそこまで濃厚なMではないですけど、俳優というものは、けっこうMだと思うんです」
松「監督はどちらかというとSでしょうね。監督をしている間はSで、撮り終わって編集作業に入るとMになるという感じは、すごくします。撮り終わると、あとは奉仕に入るんですよ。全部自分が背負うことになるし、いかにみなさんの要求を満たしていくかという作業になりますからね。でも僕、現場でSというほどSではなかったですよね?」
大「監督がSで僕がMというと、なんかちょっと語弊が…(笑)。いや、監督と俳優として、良い距離でお仕事をさせていただくことができたと思っています(笑)」
松「僕は映画監督といいながらも、他の人の映画に出たことが無いので、監督がどういう立ち居振る舞いをするものなのか、正直よく分かっていないところがあるんですよ。役者さんと、どのくらいの距離で付き合ったらよいのかとか、話し合ったらよいのか、とか。だからいまだに、現場ではあんな感じで良かったのかよく分かってないんです」
大「そうなんですか(笑)? でも、現場ではスタッフも俳優も、みんなが監督のほうを向いているという感じでした。存在感というか統率力というか、そういう雰囲気を持ち合わせている方だなと思いました」
松「大森さんは、あまり過去を気にしない人ですよね(笑)。カットした後、今撮った部分をモニターでチェックしにこないし。あれ、見なくていいのかなって…」
大「そうですね(笑)。昔、Vシネマなどで主役をやらせてもらったころの習慣ですね。当時もモニターはあるにはありましたけど、俳優が画面チェックするのはよろしくない、みたいな感じだったんです。なんとなくその感覚が今も自分の中に残っていて、映画でもドラマでも、あまりモニターチェックをしないんです。でも、したほうがいいですよね。ある意味、無責任ですね?」
松「いや、どうなんでしょうね。いろんな人がいていいと思いますけど。まあ確かに、チェックが好きな人は好きですよ。そういう方は1回1回見に来ますね。女優さんはそういう人が多いですかね。なので今回、大森さんは振り返らない人なんだなあ、と思っていました」
大「気にはしているんです(笑)」
松「モニターチェックしないのは僕に対する絶対的な信頼なのか、逆にあきらめなのかは分からないけど…(笑)」
大「信頼です(笑)」
「男って、二面性を持つ生き物だと思うんです」(松本)
「あそこまででないにせよ、僕にも可能性はあるのかも…(笑)」(大森)
物語が進むにつれ、他の映画では絶対に見ることのできない大森の姿のオンパレードとなる。特に印象的なのが、佐藤江梨子扮する女王様が寿司を食べようとしていた片山の前に現れるシーン。
松「佐藤さんには、けっこう何度も寿司をつぶしてもらいましたね。寿司ネタによっては、うまくつぶれなかったりしてね」
大「できれば普通に食べたいものですけど、味はちゃんと寿司でした(笑)。でもさすがにあれはちょっと変な気持ちになりました。きれいな女優さんの手でつぶした寿司を食べていると思うと…」
大地真央、寺島しのぶ、片桐はいり、冨永愛、佐藤江梨子、渡辺直美が、刺激的なボンデージ衣装に身を包み“体当たり”で個性豊かな“女王様”を演じるのも大きな見どころ。
松「皆さん、要望がそれぞれ違うので、それに応えていくのも監督の仕事なんだな、と改めて思いましたね。面白いことに、女優さんによってそれぞれあるんですよ。“ここは出したい”というのと“ここは出したくない”というものが。そのリクエストを聞きながら衣装も一緒に考えていったりしました。寺島さんのときは露出がギリギリで、ちょっとしたハプニングが起こりそうになってしまったこともありましたね」
大「僕も、どの女王様も印象的でしたけど…一番最初に会った冨永さんのスタイルの良さには本当に驚かされました」
それぞれの女王様が、どんなシーンに現れてどんなプレイをするのか。観客はもう、片山と一緒にドキドキ、ワクワク?しながら待ち受けるしかない。片山の日常が揺らぎだすのと比例して、映画はさらなる未体験ゾーンへと突き進む。演じるにあたって、台本を読みながら疑問も沸いたのではと思いきや大森は…。
大「でも、どの作品でも現場に行ってみなければ分からない部分ってありますので。なので、今回も現場で、このシーンはこういう感じなのかとか、意外に激しいなとか、感じながら演じていました」
松「本当に大森さんは、疑問を持たない人なんですよ」
大「なんかちょっとそれって…(笑)」
松「いや、ひょうひょうとこなしてしまう、という意味ですよ(笑)」
大「まあでも、見る側にとっても、いろいろ疑問があっていいと思うんです。映画ってそれでいいんじゃないかな、と。それを持って帰って、誰かと話すもよし、自分なりにいろいろ考えてみればいいと思います。素直な作品は割と多いですから、そういう意味でも、やっぱりこの作品はすごいと思いますね」
松「なんせ“R100”ですから(笑)」
M気分で松本ワールドに翻弄されるもよし、S気分で片山のMっぷりを眺めるもよし!? いずれにせよ前代未聞の映像体験を楽しめることは間違いない。
(本紙・秋吉布由子)
リアル・ファンタジー・エンターテインメント!
『大日本人』『しんぼる』『さや侍』と、独自の世界観で観客を驚かせ続ける松本人志。その第4作目となる最新作『R100』は、主演に大森南朋、共演に大地真央、寺島しのぶ、片桐はいり、冨永愛、佐藤江梨子、渡辺直美、前田吟、YOU、松尾スズキ、渡部篤郎という松本作品史上類を見ない豪華なオールスターキャストを揃え、見る者を“禁断”の世界へと引きずり込む…!
ひとり息子と暮らすサラリーマン・片山貴文には秘密があった。それは、謎のクラブ『ボンデージ』に入会してしまったということ。入会すると、さまざまななタイプの美女たちが、片山の日常生活の中に突然現れ、彼をこれまで味わったことのない世界へと誘っていく。しかし、その内容は次第にエスカレートしていき、女性たちは彼の職場や家庭にも現れるように。耐えられなくなった片山は中止を求めるが聞き入れてもらえない。それどころか、後戻りできない予測不能の事態が次々と起こりはじめ…。
妄想か、現実か。“R100”が意味するものは一体何なのか。
監督:松本人志 出演:大森南朋、大地真央、寺島しのぶ、片桐はいり、冨永愛、佐藤江梨子、渡辺直美、前田吟、YOU、松尾スズキ、渡部篤郎他/1時間40分/ワーナー・ブラザース映画配給/10月5日より全国公開 r-100.com ©吉本興業株式会社