『フェスティバル/トーキョー13』11月9日開幕
今回で第6回を迎える舞台芸術の祭典『フェスティバル/トーキョー13』(F/T 13)が11月9日から始まる。第1回から世界の最前線の舞台芸術をラインアップし続け、すっかり秋の東京の恒例イベントとなった『F/T』。そのプログラム・ディレクターを務める相馬千秋氏が今回の見どころを語った。
2009年に始まった『F/T』も5年目を迎えた(2009年は春秋の2回開催)。
相馬「日本国内でとんがった演劇といえばF/Tというイメージはかなりついたと思います。また海外でもだいぶ知名度が上がって日本の演劇シーンで今何が起こっているかということを知りたい人は取りあえずF/Tから入ってくるというような回路ができたかなとは思います」
舞台芸術と聞くと直感的に演劇を思い浮かべる人は多いだろうが、F/Tではダンスもあれば映像を駆使した作品もある。演劇も通常の舞台で行われるものから野外、ツアー形式のものなどさまざま。日ごろから舞台芸術に接していない人にはちょっと敷居が高いかもしれないので、とりあえず相馬さんに“オススメ”という形で何作品か紹介してもらった。
相馬「例えばリミニ・プロトコルの『100% トーキョー』という作品は入りやすいかなと思います。この作品では俳優ではなく一般の東京都民100名が舞台に上がるのですが、彼らは、東京都の統計に基づき、男女比、年齢比、居住区といったいくつかの条件から抽出された100人なんです。つまり彼らは東京全体を100%とすると、その1%を代表している、ということができる。つまり、東京の縮図が舞台に出現するわけです。彼らが演出家とともにさまざまな質問を考えて、それに全員がイエスノーで答えていく形で劇がすすみます」
この100人はもう決まってる?
相馬「最初の1人は統計学者で、そこからはチェーンリアクションといって前の人が次の人を紹介するというやり方で決めていきます。テレホンショッキングみたいなものですね。最初は選択肢が多いのですいすい決まっていくんですけど、後半になって、条件が狭くなっていくとなかなか知り合いにいないということになる。最近は最後の20人ほどを探すのにHPで公募をかけています。そういう創作のプロセスも含めて非常に面白いと思いますね。演劇というとどうしても、戯曲があって訓練された俳優さんたちが出てきて朗々と悲劇をうたうといったものを思い浮かべる人もいると思いますが、そういう旧来のドラマではない、自分と地続きの現実から生まれるフィクションなんです。見るお客さんもこの100人の中で一番近い人を見つけてその人に自分を投影することになると思うんですよ。これを見ていただくと今の演劇と社会の接点が見えてくる。新しい演劇の傾向を示しつつも、誰でも楽しめるような敷居の低さがあるような作品だと思います」
昔からの演劇に慣れ親しんでいる人からするとリミニ・プロトコルのような作品にはビックリしてしまうかもしれない。
相馬「F/Tの観客層は、全体の6〜7割が20〜30代で、なかでも女性が多いんです。そういう人たちは割と先入観がなく、こういう新しいタイプの演劇を見るし、そこで扱われているような社会的な問題などにもとてもオープンだと思います。ちょっと上の世代だと、政治的なこととか社会的なことをアートで取り扱うのはカッコ悪いみたいな感覚があった気がするんです。けれど今はむしろ、こういう実生活や実社会とリンクしているものに対する興味がすごく高まってきているなと感じています」
チラシの作品名の隣に「演劇(ツアー形式)」という表示がある作品がある。
相馬「Port Bの『東京ヘテロトピア』は会期中ずっとやっているので、いつ何人が来ても大丈夫な作品です。かつて、アジアのインテリやエリートたちは日本に留学し、自国に帰って国作りに参加したり革命を起こしたりしてきた、という歴史があります。そうした留学生たちの記憶が残っている場所を訪れ、彼らの足跡をたどるというプロジェクトなんです。たとえば若き周恩来が通った中華料理店など、お客さんは事前にガイドブックとラジオを渡され、その場所を訪れます。そこでラジオをつけると、その場所に何らかの形で由来する物語の朗読が流れてくる。そのテキストは管啓次郎さん、小野正嗣さんといった作家たちに書いていただいています。お客さんは、ガイドブックと朗読の物語を通じて、東京とアジアが出会う場所を独自の視点から観光することになります」
ラビア・ムルエというアーティストは3作を上演するが、映像のみで俳優が出てこない作品もある。
相馬「彼とはもう10年近く一緒に仕事をしていますが、彼は一環して、中東やアラブ世界と向き合った作品を作り続けています。彼のスタンスは明白で、今の中東やシリアの情勢を見て、それを単に物語化して、こんな悲劇が起こりました、といった形で表現したり、再現したりするのではなくて、そこからどう距離を取って、この問題を他者と共有可能な問いにするか、ということを実践している。単純な感情移入といったことではなくて、いかに状況に対して問題提起をするどく差し出せるかということを徹底してやっているんです。『33rpmと数秒間』という作品は舞台上には誰も登場しませんが、その代わりにフェイスブックのタイムラインが大きく映し出されています。それは自殺してしまった活動家兼アーティストのタイムラインで、そこにさまざまな人が、彼の死を悼むメッセージを書き込んだり、それに対するコメントを寄せたりして、議論が繰り広げられていく。アラブの春はSNSによる革命だといわれていますが、その陰の部分が非常にクレバーな形で提示されている。ムルエは、アラブの春やシリア情勢という複雑な現実に対して、答えを出すのではなく、強烈な問いを発するような姿勢で作品を提示しています。私はそういうアーティストに非常に共感を覚えます」
今回は参加型プロジェクトにも力を入れている。
相馬「今回からオープン・プログラムというものを新設しました。これは読んで字のごとく “F/Tを開くぞ”というプログラムで、どなたでも無料で気軽に参加できるというコンセプトなんです。なかでも去年から力を入れているのが『F/Tモブ』という企画です。都市空間を宙づりにするようなフラッシュモブの手法を使って池袋をF/Tに染めていこうという企画なんですが、誰でも気軽に踊ることができます。もちろん私も踊りますよ」
初日のオープニング・イベントでもモブがある。せっかくだからモブに来てもらって、その足で東京芸術劇場内に設置されるインフォメーションに行くと、さまざまな情報が得られる。
相馬「オープニング・イベントではモブの練習大会やライブをやります。『F/T 13の歩き方〜ラインナップ&見どころ紹介』というトークイベントもあって、ここでは演劇ジャーナリストや評論家の方々に作品について分かりやすく解説していただけるので、まずこちらに来ていただければと思います」
まずは9日に池袋の西口公園エリアに大集合だ。
都民100人が舞台に
リミニ・プロトコル『100%トーキョー』
(作・構成:リミニ・プロトコル 演出:ダニエル・ヴェッツエル)11月29日〜12月1日・東京芸術劇場 プレイハウス
©Sandra Teth
期間中いつでもOK
Port B『東京ヘテロトピア』
(構成・演出:高山明)11月9日〜12月8日・都内各所
©Masahiro Hasunuma
舞台には誰もいない
ラビア・ムルエ『33rpmと数秒間』
(作・演出:リナ・サーネー、ラビア・ムルエ)11月14日〜15日・東京芸術劇場 シアターイースト
©Rabih Mroue