INTERVIEW 浅野忠信 × 菊地凛子「俺たちは最強のチームだ」
キアヌ・リーヴスの最新主演作『47RONIN』が話題だ。時代劇のシンボル『忠臣蔵』の新解釈、日本人キャストの活躍、そしてなによりもハリウッドの力を見せつけられるこの作品で、とりわけ生き生きとして見えるのが悪役組の浅野忠信と菊地凛子だ。「最強のチームだよね」と、不敵な笑みを浮かべる2人にインタビューした。
世界に先駆けて、日本で公開がスタートした『47RONIN』。キャラクターの公開、映画館で予告映像の放映スタート。いよいよ封切りを迎えた際には、さまざまなツイートが飛び交い、期待の大きさや注目度の高さを体感させられた。
注目の理由はやはり、あの『忠臣蔵』がモチーフであるということ。ここ日本では、物語を知らずとも、何らかのイメージが刷り込まれている作品。「まあ、私たちが知っている『忠臣蔵』になるわけはないな、と思っていた」と、浅野も菊地も口を揃える。
菊地「監督にお会いした時に言われたことが、“魔女みたいな役で凛子を考えている”でした。『忠臣蔵』で魔女が出てくるってすごいなって」
浅野「天狗が出てくるとかもね。それを先に読んだのもあるし、俺は『忠臣蔵』は気にならないというか、気にもしていなかった。もしかしたら、自分の役に取り組むことに必死だったからという理由もあるかもしれないです。すごくいい役をいただきましたから」
俺がやるんだから黙ってろ!
浅野が演じるのは吉良上野介。敵役であることは、ほとんどの人が知るところだが、もちろん一筋縄ではいかない新しい吉良だ。
浅野「当時、吉良のような役、まあ、悪役をやりたかったんですよ。僕が演じるなんてあり得ないというような役をやらせていただいた後だったこともあって、俺だからできることってなんだろうって考えていた時で。顔も顔だから、あんまりポジティブなヒーローって方向ではないだろうし(笑)、そうすると、90年代にやってきたわりと変な役だろうとか、ね。自分のキャリアに奥行きを持たせるためにも、そういう役をやりたかったし、必死になってました。だから、吉良がこんな若いわけないとかも言われたりもしたけど、俺がやるんだから黙ってろ!みたいな気持ちもありました。浅野が吉良をやる、浅野家を敵にする浅野を見たいでしょ、と。とはいえ、実をいうと、浅野家の映画を撮るんだから、俺(浅野)を使わずにどうする!って、暗に、浅野家の役をくれって監督にアピールしてたんです。でも、来たのは吉良だった。話、聞いてたのかなあ(笑)」
菊地「えー、そんなことあったんですか? もしそうなっていたら、私はこっち(敵)側で1人悔しがっていたかもしれない……。でも、良かったですよ、浅野さんがこっち側で。だって、浅野さんは悪役の専門家じゃないですか。よっしゃ、おもしろいことできるぞ!って思いました。だって、チームとしては……」
浅野「最強だよね!」
専門家とのタッグに、菊地が喜んだのも当然。なぜなら、菊地は悪役初体験。
菊地「そうなんですよ、こう見えて(笑)。長い知り合いで、さらに悪はご専門の浅野さんがいて、浅野さんが指揮を執って、私はそれに従うというチーム。浅野さんがどこまで行ってもついていった感じで、リハーサルでも現場でも、試行錯誤っていうよりも、どう楽しくしようかって考えてました。浅野さんとも、いろいろ話しました。監督にも言わずに何かやってみたり、それが失敗して、ダメだったなって反省したり(笑)。すでに映画を見てくれた友達は、ハマリ役だって言ってくれたので、私って悪役、イケるのねって思ってます。……味をしめました」
「問題」はハチャメチャにやる
「どの映画にも、問題が必要であり、重要」と、浅野。この映画で、その問題とは吉良であり、その手足となって動くミヅキ(菊地)だ。2人は、嬉々として、「問題」と「悪」を提示した。
浅野「なんか一辺倒になりたくないじゃないですか。今まで見てきた悪役がそうならこうしようとか、やっちゃいけないよねってことがあるならやってみようって。ぶっ壊してなんぼだとは思ってました。だって、“問題”である俺たちが躊躇していたら、(見ている人は)感情移入できない。それに、めちゃめちゃにやらないと、浅野家は吉良を殺しには来ません!」
菊地「でも、意外と、ワル役然とはしていないんですよね。なんというか、ピュアな悪役。ちょっと、悲しいの」
浅野「これまでいろんなクセのある人間を演じてきましたけど、そういう人たちって、決して悪者になりたくて生きてきたわけじゃなかった。なぜうまくいかない、どうして間違いを起こしちゃったんだって悩んでる人たちです。前向きで、いい人間になりたいはずが、世間から嫌われ者になったり、過ちを犯しているんじゃないかと思えて。吉良も、ただのワルだぜってやっても誰も喜ばないだろうとは思いましたね」
菊地「一生懸命やってきたけど……みたいな、ね。なんか、子どものころから持っているような感情。浅野さんがそこを出してたのがすごいなって思ったし、見ていて面白かったですね」
守られた環境で好きなこと
外国作品には多数の出演経験がある2人だが、日本人キャストの多い現場にも救われたよう。
菊地「浅野さんもそうだと思うんですけど、周りがほとんど海外メンバーのなかに、1人ポツンと入っていくのが多いんですね。だから今回、日本チームがいて、浅野さんがいて、私としては守られた環境のなかで好きなことができる感じでしたね。日本人キャストの結束力もあって。現場で日本語が通じるのは私たちだけっていうのも良かった。待ってる時に、みんなで、寒い!寒いっ!とかボソボソ言ってても、周りは気づかない(笑)」
浅野「いろいろ話ができたのは良かったよね。真田(広之)さんと再会してお話ができたのは印象深かったなあ。19歳のときに『眠らない街 新宿鮫』で共演しているんです。自分で意見をして初めて俳優としてアピールをした作品で、それを真田さんも受け止めてくれたのがうれしかった。その時のことが、今作の撮影中にもよみがえってきました。あの時、俺はストーカー役で、真田さんは刑事役で……わりかし、『47RONIN』に似ている関係性。あれから20年、あの時のストーカーはもっともっと嫌われる奴になって、真田さんは相変わらずヒーロー。俺が問題を起こし、真田さんに止められる。今回はもういい加減にしろってことで、首をはねられた、と」
日本映画のすごさをアピール
浅野、菊地、そして真田と日本を飛び出し、世界で活躍する演者が揃い、これまでの日本をモチーフにした作品の枠をも飛び越えた『47RONIN』は、ハリウッドに新たな歴史を確かに刻む。そして、また、映画における日本映画という立ち位置にも変化を与えていくかもしれない。ハリウッドには、実現の日を待つ、日本を舞台にしたり日本をモチーフにした企画がたくさん転がっているという話も聞く。
浅野「われわれ俳優がこうやってチャンスをもらっているなかで、監督だったり、日本の映画製作者にとってもアピールしていかなければならないポイントだと思っています。隣りの韓国や中国では、世界に向けて映画を作って、世界で活躍しようと努力している。でも日本は、島国だからなのかなあ、なんか違う。世界には日本映画ファンがドワッといるんですよ。下手したら日本人より日本映画に詳しいような人たちが。必要としている人がいる、見たいっていう人がいる、大切にしてくれる人がいるんだから、我々もどんどん出て行って、みんなで協力して、世界中で映画を作っていかないと」
菊地「それに、海外、とくにヨーロッパに行くと感じるのですが、みんな日本にすごく興味を持っているんですよ。日本のキャストで撮りたい、日本で撮影したい、さらにそれを日本で上映したいって思っている。そういう人たちにとっても、日本は、開かれた環境であってほしいと思いますね。同じアジアのなかでも、韓国、中国では、映画を撮りたい人を、国がきちんとバックアップしている。それは、自分たちの国で映画を撮る、それを支えることを誇らしく思っている、そのことで、もっと前に行けると考えているからじゃないかと思うんです。映画を作りたいから作る、そういう自分たちの欲求だけでやっているだけではなくて、それを機に、もっと大きなものにできる可能性があるって思ってるんだと思います。その可能性とか希望を、日本の映画ビジネスの中でも見たいですよね」
浅野「そのためには、バックアップも必要です。イチロー選手が活躍するとうれしいじゃないですか。同じように、渡辺謙さんが活躍されてもうれしい。みんながそのうれしい体験をまたしたいって協力してくれれば、日本の映画は、もっとすごいことになるかもしれない。そのためにも、映画に関わる人たちが、政治家、役人、そういった人たちに、日本映画が世界に広がっていることをちゃんと認識してもらえるように動かないと。まずは自分たちもどんどんいろんな作品に出て、アピールしていかなければいけないですね」
『47RONIN』は全国で公開中。
(本紙・酒井紫野 撮影・神谷渚)