出演決定の報告を滞在中のロンドンで聞く!!「運命を感じた」作品 多部未華子
イギリス最高の文学賞、ブッカー賞作家であるカズオ・イシグロの世界的なベストセラー作『わたしを離さないで』が蜷川幸雄演出のもと舞台化される。主演のひとりを務めるのは映画やテレビはもちろん、舞台でも非凡な才能を発揮する女優・多部未華子だ。
原作は2010年、キャリー・マリガン、アンドリュー・ガーフィールド、キーラ・ナイトレイといった実力派の若手俳優を起用し映画化された。今回、この3人が演じた役を担うのが多部、三浦涼介、木村文乃となる。3人は外界から完全に隔絶された寄宿学校で幼いころから暮らす幼なじみのような存在。
「木村文乃さんとは一度ドラマでご一緒したことがあるんですが、そのときも一緒のシーンが多かったわけではないので、そんなに話してはいないんです。他の出演者の方々も初めての方ばかりで、どんな作品になるのか全く手探りの状態なんです」
多部は主人公のキャシーを演じる。
「舞台では設定を日本にしているので、私は八尋という役を演じるんですが、特徴があるといえばあるし、ないといえばないといった女の子。すごく難しい役だと思います。どうしよう?と思っているんです」
この作品は読む人によって随分印象が違う。クローン(コピー)、臓器提供、という言葉に強く反応してしまう人。3人を中心としたヒューマンドラマに涙する人。映画は原作に忠実だった。今回はどんなテイストなのだろう?
「なんの先入観もなく台本を読んだ時には、難しくて最後は暗い話だなって思いました。その後、映画を見まして…静かな…暗い映画だなって(笑)。暗いというか“重い”でしょうか。3人の関係性というか、恋愛関係をみると、表現されているのは若い人のリアルな心情なんですけど、背負っているものが私たちとは違うので、重いという印象を持ちました」
演出家の蜷川にはどんな印象を?
「お会いした時は本当に優しい方でした。でも稽古場で会っているわけではないので、どんな稽古場になるんでしょう。周りの役者さんにうかがったことがあるんですが、そんなに怖いというお話は聞いたことがないんです。でも、今回だけすごく怖かったらどうしましょう。“全然話が違うじゃん”みたいな(笑)」
多部は2010年に野田秀樹原作、松尾スズキ演出の『農業少女』で初舞台。同作で読売演劇大賞の優秀女優賞、杉村春子賞を受賞する。そして2012年には宮本亜門演出の『サロメ』、『ふくすけ』と話題作に立て続けに出演し、舞台女優として、大きな存在感を見せている。そして今回は1年半ぶりの舞台となる。
「年に1回はやりたいとは思っています。やっぱり舞台は大きな経験を積める場だと思っていますので」
この作品への出演が決まったのは昨年のこと。
「作品の舞台がロンドンなんですが、私そのときロンドンにいたので、運命を感じました」
舞台はくせになりそう?
「くせになりそうなんて思えないですよ。やっぱり大変ですから(笑)。くせになる…というか面白い。でも、面白かったなと感じるのは終わった時だけですね」
やっている最中は?
「私はまだそこまでは思えないです。一番最初に『農業少女』を演じたときは、なにも分からずただがむしゃらにやっていたら終わっちゃった。『サロメ』のときは、なにかトラブルが起こったときに何も対処できない自分がいるなと思いました。それだけ本番中に余裕がない自分というものを発見しました。でも農業少女のときはそれすらも気づいていなかったですね」
作品としては「宿命を背負った人たちがどういう気持ちで生きていくのかということがまず根本にあるので、そこを見てほしいです」という。
今までの舞台ではエネルギッシュな役を演じることが多かったが、今回は静かな中に熱いものを秘めた人物を演じる。多部のまた違った顔が見られそうだ。