鈴木寛の「2020年への篤行録」  第7回 都市部の低投票率を上げるには

 大型連休前とあって、4月後半は全国的な選挙ラッシュ。ざっと数えただけで100を超えます。この東京でも20日に練馬区長選・区議補選が行われました。区長選では4人の新人が争い、自民・公明が推薦する元都福祉局長の前川燿男さんが初当選。関西では、私の故郷・神戸近くの西宮市長選で41歳の無所属新人、今村岳司さん(前市議)が、自公民3党が支援する現職を破るサプライズを起こしました。

 このコラムをお読みで練馬にお住まいの方は、投票にちゃんと行かれましたでしょうか?「選挙があったなんて知らなかった」と若い方もいらっしゃるかもしれません。練馬区長選の投票率は前回(45.33%)を大きく下回る31.68%。かつては統一地方選挙で行われていましたが、今回は前区長の急死に伴う、突然の選挙だった影響で、有権者があまり関心を持ちづらかったとみられています。

 ただ、過去2回も投票率は5割を切っていました。西宮市長選にいたっては、さらにひどく過去4回は26〜34%で推移。今村さんの挑戦で注目を集めた今回は多少伸びたものの、36.41%でしかありません。練馬も西宮も都市部の地方選の悩みである低投票率にあえいでいます。東京の区長選も近年、20%台に低迷することが珍しくなくなりました。都市部の有権者は、国政選や知事選のような大型選挙は足を運んでも、最も身近なはずの選挙になぜ行かないのでしょうか。私はメディアと教育の2つが原因だと考えます。

 まずメディアの影響についてですが、70年代くらいまでは、多くの選挙で投票率は6割を超えていましたが、80年代は都知事選ですら5割を切るようになります。社会が豊かになり、政治的な不満が減少したのでしょう。並行するように90年代以降は、テレビが娯楽番組でも政治を取り上げるようになると、タレント出身の知事が誕生し、郵政民営化をかけた2005年の衆院選、大阪都構想を問うた11年の大阪ダブル選など「劇場型政治」が定番化。視聴者(有権者)が政治に対して刺激的な要素を求めるようになり、区長選や市議選といった身近な選挙にいっそう関心が持ちづらくなったと私はみています。

 だからこそ教育が重要なのです。日本では義務教育の段階で、本当の意味で政治リテラシーを上げる教育をしていません。中3の公民の教科書で、三権分立の図面を読んだだけではピンとこないはず。かつて民間出身で杉並の中学校長を務めた藤原和博さんは「よのなか科」を提唱し、子どもたちに放置自転車問題を考えさせるなど既成の社会科教育を改革しました。そうした実践的なアプローチは地域の問題を考える方策でしょう。

 そして投票年齢の18歳引き下げも実現したいところです。日本では例えば、上京した一人暮らしの学生は20歳で選挙権を得ても投票への意識が持ちづらいですが、10代の選挙権がある国では、最初の投票は家族で行きますので、投票が習慣付けやすいのです。

 今年はまだ、中野や杉並、品川、新宿で区長選があり、来年春は統一地方選挙があります。地域の身近な問題をご家族や地元のお友達で、まず話し合ってみることで地域の課題に目を向けてみませんか。自治会やコミュニティ・スクールは良い契機をもたらせてくれます。

(東大・慶大教授、元文部科学副大臣、前参議院議員)