歩く世界遺産「熊野古道」
世界遺産登録から10年。和歌山県田辺市・中辺路を歩く
古くは古事記や日本書紀にも記述が見られ、現在では日本国内のみならず海外からも参拝に訪れる人が引きも切らない、世界遺産・熊野古道。はるか昔から未来へ続いていく“道”に込められた思いをたどる。
誰をも受け入れる“よみがえり”の道
2004年に世界遺産に登録された熊野古道。登録から10周年を迎えた今年、熊野古道周辺ではさまざまな記念イベントが行われ、さらに注目が集まっている。熊野古道とは、聖地である熊野三山(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社)を目指す参詣道の総称。巡礼路として登録されているのは、世界でも熊野古道とスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラの2つだけ。熊野の山々=黄泉の国を歩いて“よみがえる”という「熊野詣で」は古くから行われており、平安時代や江戸時代にも参詣ブームが起きている。
熊野信仰のユニークなところは、神と仏、自然信仰が共存していること。さらに訪れる者の身分や男女も問わない聖地でもある。有名な言い伝えとして、熊野詣でに来た和泉式部が途中で“月の障り(月経)”となり、不浄の身で参詣はできないとあきらめかけたとき、夢に熊野権現が現れ、気にすることはないと告げたという話が残されている。熊野とは参詣に訪れる者を分け隔てなく迎えてくれる聖地なのだ。
熊野古道は一本の道ではなく、熊野三山を目的地とした複数の参詣道がある。紀伊半島の東海岸沿いを歩く大辺路、伊勢神宮から出発する伊勢路など、距離や道の険しさはさまざま。今回は初心者や観光客にも人気の、和歌山県・田辺市にある中辺路を歩いて熊野本宮大社へ向かう道をたどった。
田辺市・中辺路で触れる古道の魅力
熊野古道のなかでも人気が高いのが、後鳥羽院や藤原定家、和泉式部も歩いたとされる中辺路ルート。本格的に歩くなら、滝尻王子からスタートして熊野本宮大社まで2〜3日ほどかけて歩く。ちなみに、古道を歩く際の道しるべにもなるのが、熊野権現の御子神を祭った“王子”。数は100近くあり、熊野九十九王子と総称される。歴史的な社や祠、記念碑などの名所や、休憩ポイントがある場合も多い。道々に“○○王子から○○王子へ”といった標識があるので確認しながら歩こう。
熊野古道のうち最古の高原熊野神社や、花山法皇ゆかりの牛馬童子像、南方熊楠ゆかりの巨木・一方杉がある継桜王子など名所づくしとなるが、アップダウンの激しい山中も通るので入念な準備と計画が必要。初心者であれば、ルート後半にある発心門王子からのスタートをおすすめ。比較的なだらかな山中や補正された道を通って、かつて旅人がここから本宮が見えたので感激して伏せて拝んだという伏拝王子(和泉式部供養塔もある)や、明治まで熊野本宮大社があった大斎原と大鳥居を通り、大社にたどり着く。ゴール直前の名所を1日で歩くことができるコースだ。熊野古道には数多くの歴史的人物や逸話が残されているので、下調べしておけば感動もより深くなるはず。