鈴木寛の「2020年への篤行録」第12回 パリで羽ばたいた東北の子どもたち
8月下旬、パリで開催された「東北復幸祭〈環WA〉」に行ってきました。岩手、宮城、福島の中高生が参加した「OECD東北スクール」の生徒たち100人が、世界中に東北復興のアピールと支援への感謝を込めて、2年半をかけて準備してきた一大イベントです。フランス政府とパリ市のご厚意で、なんとエッフェル塔前のシャンドマルス公園を会場に15万人もの方々が来場していただきました。
OECD東北スクールは2011年春、OECD教育局の皆さんが被災地への教育関連の支援で何ができるか視察のために来日された際、当時文科副大臣だった私の提案もあって始まったプロジェクトです。肝は20世紀型の教育に戻すのではなく、22世紀型の教育を先取りした「創造型復興教育」。私は来日したOECDの皆さんに対し、「亡くなった2万人の御霊にこたえるためにも、残された子供たちがこの地域をもう一回、しっかり盛り立てていくことが最大の供養になる」と申し上げました。OECD教育局は先進各国の教育への取り組みを調査、研究し、教育改革の推進や教育水準の向上を図ることを目的としていますが、世界に先駆けようという前代未聞のプロジェクトです。しかし幹部の方が「日本から始めてみようじゃないか」と提案に乗ってくださいました。そして、震災から1年後の2012年3月、被災3県の生徒たちが集まって、授業が始まります。初回は池上彰さんにファシリテーターを務めていただいて学習意欲を高めてもらいました。目指すは2014年9月、パリで開催するイベントを成功することです。
生徒たちは企画から実行準備を原則、自分たちの手でやってきました。イベントのスポンサー集めでも企業を回ってプレゼンをしました。熱意に動かされ、経済同友会や楽天、ユニクロ等の大手企業も多数賛同してくださいました。プロジェクト・ベースド・ラーニングを通じ、リーダーシップや企画力、想像力や建設的な批判思考力(クリティカルシンキング)、交渉力などを培い、今後10年、20年の長きに渡る復興の立役者になってもらいたいというのが、OECDや私たちの思いでした。
イベントでは、津波の高さと同じ26.7メートルに設定したバルーンを飛ばし、津波被害の広がりをイメージしたドミノ倒し等、被災状況を分かりやすく伝える工夫もされました。そして南三陸・戸倉地区の鹿子躍りといった伝統芸能や、「さんまdeサンバ」と銘打って郷土の水産資源のアピールをするフラッシュモブ等の企画も行い、来場した皆様の歓心を得ていました。
今回の取り組みを通じて、一番うれしかったのは生徒たちの成長を劇的に後押ししたことです。途中、感想を提出してもらっていたのですが、被災直後は茫然自失だったという生徒も、「津波にのまれた過去を乗り越えて、この体験を情報としてみんなに話し、それに前向きに考えて行動することができた」と語るなど精悍になっていきます。なにぶん3年近くも一つのプロジェクトに関わるのは大人でも少ないこと。18歳の参加者には人生の6分の1、15歳には5分の1をも占める「長期間」です。それだけでも濃密な体験になったか分かります。この2年半、生徒やスタッフを支え続けたOECD本部教育局のプロパー職員の田熊みほさん、文部科学省の南郷市兵さんの尽力が光ります。
幕末の薩長の若者たちもまさに時代に荒波を乗り越えて、たくましく育ち、明治維新の原動力になりました。国難はピンチでありながら、人を鍛え、大きくするチャンスでもあるのです。今度は21世紀の東北、日本を支え、リードする人材が、この参加した100人から輩出されるものと期待しています。
(東大・慶大教授、元文部科学副大臣、前参議院議員)