SPECIAL INTERVIEW 米倉 涼子
「いたしません」、「私、失敗しないので」というフレーズが小さな子どもたちの間でも使われるほど、幅広い層に愛されているドラマ『ドクターX』シリーズ。通算3作目となる最新作『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』が戻ってきた。「自由にやっていきたい」。型破りなフリーランス外科医に再び挑む、米倉涼子にインタビューした。
先日スタートした『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』が早くも話題を集めている。2012年秋、昨年秋に放送され、この秋通算3作目になった。ヒロインを演じる米倉にとっても、名刺代わりの作品、役どころになったともいえそうだ。「2年前は“いたしません”“失敗しないので”のセリフが、ぎこちなくてムズガユイなって気持ちだったんですが、最近は気持ち良くて(笑)。本当の気持ちを乗せても怒られなさそうだなって思いながらやっています」と、米倉は言う。
「大門未知子は一匹狼。自由にやっていきたい」。初回放送を控え9月30日に行われた制作発表で、米倉は笑顔で意気込みを語った。大人気、そして多くのファンが待ちわびるなかでの最新作。寄せられる期待も大きい。この作品に関わる人はもちろん、米倉本人にとってもうれしいニュースではあるものの、その一方で、複雑な気持ちもあったようだ。実際に、決定時には、「シリーズものは苦手」としながらも、「でも、やってみようと思って」とコメントを寄せている。
「シリーズものって……あんまり得意じゃないです。なんていうのかな、ドラマそのものじゃないところが注目されがちというか……。戦略的だとか、テレビ局がとか、数字だとか、安全圏に行ってるだとかって思われがちなところ、あるじゃないですか。それが嫌だなあっていうところがあったんですよね。それに、挑戦するなら新しいものを、新しいハードルを越えていきたいって思ったりもして。私、わがままなんですよ(笑)。ただ、『ドクターX』ってちょっと違うというか。一連のシリーズではあるけれど、そのなかで新しいことに挑戦できる作品なんです。例えば、心臓外科、消化器外科、いろんな分野に飛び込んでいけるし、前のシーズンでは馬を治療っていうのもありましたし(笑)。想像がつかないところまでいけてしまうんです。別の新しい作品に臨むのとは違うかもしれないけれど、大門未知子を介して、新しい挑戦ができるんです。だから、今も楽しみながら撮影をしています」
1作目、そして2作目と、シーズンを重ねるたびに闘いの場はレベルアップしてきた。最新作の舞台は日本医学界の最高峰・国立高度医療センター。米倉も「すごいスケールになっています」と言う。上がった闘いのレベルに比例して、手術シーンでの手さばきなど、前2作で磨き上げられた技術も生かされそう。
「最初の作品から見ていただけている方には、技術の進歩は感じてもらえるんじゃないかなとは思います(笑)。今回は(3作目だからといって特別な)準備はそれほど“いたしません”でした、なんです。プランというプランもないし……準備という意味では、“変わらない”準備ぐらいかな。未知子って、どんな場所に行っても未知子なんですよ。一匹狼で、どこに行っても対応できる力を持ってて、権力闘争であるとかそういう変なところには絶対屈服しない。もちろん、いろんな経験をしてきているからレベルは上がっているんですけど、それ以外の部分で“変わらない”未知子でいられたらいいのかなって思っています。強いて何か挙げるなら、目新しいところで、髪を切ったことぐらいですね。前作でも切りましたけど、もっと短くしました。ヘアメイクさんと相談しながら今のスタイルを決めたんです。フェミニンすぎず、男らしすぎずでっていうオーダーで。今、暗くてシルエットだけ見えるみたいなところでは、“男だと思った”って言われたりしてるんですよ(笑)」
そんな米倉演じる“変わらない”未知子とともに、作品を作り上げるのは、岸部一徳、内田有紀、勝村政信ら第1作からのメンバーに、2期から加わった遠藤憲一ら。本気の芝居をぶつけ合ってきた顔ぶれだけに、今回も最初から現場の雰囲気がいい。前述した会見では、米倉らが遠藤を「憲一」と名前で呼んでいること、遠藤がつい口ずさんでしまうという映画『アナと雪の女王』の楽曲『Let It Go〜ありのままで〜』を映画を再現する雰囲気で物まねしたりと、チームのいいムードが伝わってきた。
「現場でも会見のままなんですよ。オペシーンの撮影の時は身動きできなくて苦しいんで、術着やマスクを取ったときの解放感といったらすごいんですよ。そうすると、みんなで一斉に体を動かしたりして。楽しいです」
最新作では、新しいメンバーも加わっている。若手、ベテラン、お笑いなどさまざまなフィールドから輝くキャストが集まった。なかでも、圧倒的かつ得体のしれない存在として登場するのが、北大路欣也だ。
「北大路さんは、やっぱりすごいです。難しい言葉が羅列されいるセリフを絶対完璧にやられてくるんです。会見では、私のセリフのほうが難しいなんておっしゃってましたけど、あれはちょっと違う(笑)。難しいっていっても、私は手術中だけで、口を大きく動かしたりしてはっきり話してもマスクをしているから助けられているところもありますしね。それに、最初から少しずつ積み重ねてきたところもありますから。北大路さんは今作から入られたのに、完璧。カンファレンス上であるとか、TVに出るシーンなんてすごいんですよ。やっぱり一番難しいと思います」
役どころはもちろん、そこに居るだけでも存在感のある北大路。緊張も感じそうだが……。
「私、大抵の大人の方とは、大丈夫というか、楽しくいられるんです。小さいころ、バレエの稽古に行っていたころから大人と一緒にいることが多かったことの影響かもしれないし、背伸びをしていたっていうのもあるのかな。同級生よりもいい先輩といるほうが落ち着くんですけど、北大路さんはお友達感覚ではお話しできないなって感覚はありますね。ただ、この『ドクターX』、大門未知子という役柄と隣り合わせていると、どんな人がやってきても揺るがないような気持ちでいられるんです。それこそ、北大路さんと演じていても、怖くない。どんなに偉い人が来ても、未知子を通して、ビクビクしないで済むんです」
これまでの出演作を振り返っても、大御所、大女優という形容詞がしっくりくる役者との共演が多い。「先輩に囲まれる現場が多いんですよ」と、本人。女優としてのキャリアも長くなってきたなかで、米倉はかなり稀有な存在といえる。
「去年、女子高生を演じさせていただきましたけど、その時は、自分より若い子たちに囲まれて新鮮でしたね。いつもと違って高い声が飛び交う現場で、最初は慣れなくて1人で部屋に閉じこもったりもしたんですけど(笑)、ヨネさん!って呼ばれて、いつも新しいことを教えてもらったし、LINEのグループでメッセージを送り合ったりして、すごく楽しめましたし、“先輩”であるとか、“若い”っていうのだけではないってこと、自分より10も20も年が下でも、尊敬できる人はいるんだなって、改めて教えてもらった現場でした。年齢だとか世代だとか関係なしに、彼女ってすごい、彼って何かある、そういう人たちとつながりあえるのってうれしい。今後もいろんな出会いがあればいいなと思います」
先輩たちと米倉が息が合うのも同じことがいえるかもしれない。
『ドクターX』に話を戻そう。大門未知子もまた、権力闘争を繰り広げるオトナの医師たちにとって「何かある」存在。それゆえに、最新版『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』からも目が離せなくなりそうだ。
「これまでもそうだったんですけど、今作はコミカル・プラス・リズミカルな感じがより色濃くなっている気がするし、ドラマをおもしろくしてくれていると思うんです。未知子と岸部さん演じる神原の関係もより深まっているし、未知子がいないシーンでも遠憲(遠藤)さんと勝村さんの掛け合いもすごくおもしろいんです。それがあったうえで、未知子が入ってくると、未知子のおもしろみもぐっと増してくるんです。そこに、北大路さんのまとめ! 楽しんで見ていただけたらうれしいですね」
30代最後の年、不惑を前に、新たな挑戦が詰まった本作で、女優としてさらに輝きを増しそうだ。そこで再び、会見での一幕。セレモニーとしてケーキにナイフを入れたときの感想が「手術もいいけど、ケーキ入刀もいいな」だったが……。
「聞かれると思いました! みんなにも、そのコメントだと絶対結婚について聞かれるぞって言われました(笑)。答えは、いつかあればいいなって思いますけど。そんな深く考えたことがないですよ。インタビューで聞かれるから考えざるを得ない。そんな感じです(笑)」
(本紙・酒井紫野)
大門はやはり「いたしません」?
帝都医科大学付属病院第三病院の元院長・毒島隆之介(伊東四朗)を治療するため、特定機能病院・国立高度医療センターに乗り込んだフリーランスの外科医・大門未知子(米倉涼子)。最初は追い出されたものの、一転、毒島の担当医として雇われることになった。東帝大学病院と西京大学病院、日本を代表する大学の派閥が覇権争いを繰り広げている同センター。未知子はそのなかで、どう立ち回っていくのか……。会見に出席したキャストの他、マキタスポーツ、高橋和也、木下隆行らが出演。伊東を含む特別出演には、古谷一行、西田敏行。テレビ朝日系で木曜午後9時〜。