新垣結衣「守りたい」という思い 【インタビュー】映画『トワイライト ささらさや』
加納朋子の小説「ささら さや」を原作に、新垣結衣主演、大泉洋共演で描く感動作。自身初となる母親役で、夫に先立たれながらも成長していく主人公を瑞々しく演じきった新垣が思いを語る!
「今では東京も私の大切な居場所です。よく遊びに行くのは渋谷かな。買い物でも友達と会うのも、迷ったら渋谷に行くという感じです(笑)。沖縄にいた中学のころから東京に通ってきていたので、もともとなじみの土地ではあったんです。電車の乗り方も覚えていましたし(笑)。東京で暮らし始めたときは、新しい街での生活に対する不安というより沖縄時代の友達と簡単に会えなくなるということが辛かったですね。今となっては東京が大好きですけど、それは東京に会いたい人たちがいっぱいいるから、というのが一番大きいと思うんです。会いたい人がいる場所、それが居場所なのかなと思います」
今回、新垣が演じた主人公・サヤは、大泉洋演じる夫・ユウタロウに突然先立たれたシングルマザー。生まれたばかりの息子・ユウスケとともに新天地・ささらに移り住み、亡きユウタロウに見守られながら新たな“居場所”を作り出していく。大泉との異色の?夫婦姿も見どころだ。
「大泉さんは、根っからサービス精神が旺盛な人だなと思いました(笑)。そのおかげか、大先輩なのに緊張することもなく自然と隣にいられたんです。夫婦役の相手が大泉さんだったのはすごく良かったし、楽しかった。もっと一緒にいたかったですね。ユウちゃん(ユウタロウ)は“いる”ようで“いない”ので(笑)」
いるようでいない、というのがこの物語の面白いところ。亡きユウタロウはサヤが心配なあまり成仏できず、ときおり誰かに乗り移ってはサヤの前に現れる。その奇妙でコミカルな夫婦関係はとても魅力的。
「大泉さんとの掛け合いは、すごく楽しかったです。サヤの人物像を考えて抑え気味にしていましたけど、本当にどんどん突っ込みたくなるんですよね(笑)」
今回演じたサヤは、ユウタロウが成仏できなくなるくらい、一見頼りない女性。
「サヤは天然なのか真面目なのか、何でも真剣に受け止めて、ユウちゃんからしょっちゅう“バカだねえ”と言われているんです。でも、そう言っているユウちゃんを転がしているような感じもあるんですよね。ちょっと謎な部分がある女性なんです。例えば、本当に悲しいときに寄席に行って笑っていたり。私だったら、そんなときに寄席には行きません(笑)。もう落ちっぱなしです。落ちるところまで落ちて、これじゃダメだと思ったら友達に電話して聞いてもらって、あとは、どうしたって時間は過ぎるから次に進むしかない、という感じです。サヤは根っから強いんだと思います。ユウちゃんに“お前は人を信じすぎる”と言われる場面があるんですけど、そういうことを言われてみたいですね。サヤは、知らない人が家に入ってきたのを受け入れたり、出会ったばかりの親子に何を感じたのか友達になってくださいと言えたり、人をあそこまで信じられる強さがあるんだと思うんです。人を信じすぎる、って言われるくらい人を信じてみたいと思いました(笑)」
サヤの強さの理由、それは幼い息子・ユウスケ。本作は新垣が初の母親を演じることも話題となっている。
「私自身は、母親役ということに特に戸惑いはなかったんです。同じ年の友人の中には子供がいる人もいますしね。ただ、世間的なイメージでは、まだ私が学生服を着ている姿を思い浮かべられることも多くて(笑)。だから、赤ちゃんを抱いている姿を違和感なく見てもらえたらいいんだけど…と思ってはいましたね」
確かに母親役はこれまでになかった新鮮な役どころ。しかしスクリーンに映し出されるサヤはまぎれもなく我が子を抱く母の姿。このリアル感、特別なトレーニングでも?
「特に準備をしたということは無いんです(笑)。ただ、ちょうど親類に赤ちゃんがいて、抱っこさせてもらったり遊ばせてもらったりしたことが、助けになりましたね。赤ちゃんって、抱く側が思うのと逆方向に動くんですよ(笑)。落ち着かないと声も出すし、すごく動く。抱いていると、赤ちゃんの動きに臨機応変に対応していくしかないんですよね。そんな姿が、母親らしいしぐさにつながったんじゃないかと思います。赤ちゃんを抱いていると、こっちもじっとしていられないので、セリフを言いながらも、常にいろんな方向に体を動かしたりして赤ちゃんが落ち着くポイントを探していました。必死に、セリフを飛ばさないようにしつつ(笑)。そうしたら、それがとてもリアルだったらしく、現場で見ていらした赤ちゃんのお母さんから褒めて頂いたことがありましたね。でも私は赤ちゃんの動きに合わせていただけなので、赤ちゃんサマサマです(笑)。とはいえ本当のママがあやしているところを見ると全然違いますけどね。参考にはしたつもりですけど、本当のお母さんって、もっと自信があるんですよ。どうしたらこの子が笑ってくれるか、よく知っているから。そういうことを、勝手に観察させて頂いて、真似したりはしてみたんですけど。やっぱり本当のお母さんはすごいです」
そう言う新垣だが、彼女がすごいのは、演じながらも役者以上の思いを持って赤ちゃんを抱いていたこと。
「現場で赤ちゃんを抱いているのは私なので、赤ちゃんに何かあれば私が気づかなくちゃいけない、という思いは常にありましたね。もし赤ちゃんが辛そうにしていたら、私が撮影を止めてでも、お母さんのところに戻して様子を見てもらわないといけないと思っていました。それがある意味、わが子を守る親の気持ちにつながっていたのかもしれません。3年前の震災のとき、私はちょうど部屋にいたんですが、怖がるよりもペットの犬を守らなきゃという思いが先に来たんです。犬と赤ちゃんを一緒にはできませんけど(笑)、何を置いても大切な存在を守らなきゃという気持ちってありますよね」