鈴木寛の「2020年への篤行録」第14回 話題沸騰 G型大学、L型大学

 このたび文部科学省の参与に着任いたしました。東大と慶応大の教授を兼務していますので一度ご辞退申し上げたのですが、学識経験者として非常勤でも構わないということでした。それでも悩んでいたのですが、親しい大学のトップクラスの方々、小学校や中学校など信頼できる現場の皆様にご相談したところ、「文部科学省の中に入って政策の質を上げてほしい」「現場を知っているすずかんにこそ中に入るべき」との声に後押しされました。


 下村大臣からのオファーは、文科省の諮問機関である中央教育審議会(中教審)の安西祐一郎会長と、安西先生を脇で支える文科官僚諸君の「チーム安西」をサポートしてほしいとのことでした。大学入試制度改革やフリースクール・不登校問題などの課題に取り組んでいきます。


 さて、私の「文科省復帰」が公表された先月下旬、経営コンサルタントの冨山和彦さんが安倍総理に提起した今後の大学のあり方が経営者や教育関係者の間で大変話題になりました。プレゼン資料(我が国の産業構造と労働市場のパラダイムシフトから見る高等教育機関の今後の方向性)によると、これからの大学は2つの方向性、すなわち情報産業や製造業等グローバルで勝負する人材を育てる「G型大学」、介護・外食・流通・観光など内需型経済で働く人材を育てる「L型大学」にカテゴライズされるべきとのこと。特に皆さんの注目を集めたのは「L型大学」では、「学問よりも実践力を養うべき」として学ぶ内容の転換を提言していることです。例えば経済・経営系の学部なら「ポーターの戦略論ではなく簿記・会計や会計ソフト」、あるいは工学部なら「機械力学や流体力学ではなく、トヨタ自動車で使われる最新鋭の工作機械の使われ方」というような具体例も示しています。


 私は世の中が求めている人材は3つの型があると考えます。このどれかというのではなく、下記のA、B、Cの要素を組み合わせて、それぞれの若者にあった人生設計を考えていく際の参考となる枠組みとしての話です。1つは人類に新しい価値を創造する「A型」。本田宗一郎さんのような先駆的経営者、山中伸弥さんのようなエポックメイキングな科学者が象徴例です。2つ目は日本で成功した技術やサービスをアジアに輸出する「B型」。こちらは技術力に優れ、異文化コミュニケーションが得意な人材。たとえば、製造業、コンビニ、学習塾、交番、専門学校、病院、鉄道、住宅など日本発祥で他国にも認められるものを、新興国の発展にそれを伝え、活かしていく人材です。「C型」は、高齢化するなかで、医療・介護・観光などソーシャルヒューマンサービスに適した人材、すなわち、世代や立場をこえて相手の立場にたってコミュニケーションできる人材が求められます。


 このA、B、Cのポートフォリオがそれぞれの大学・学部が、社会から求められる比率が異なるということだと思います。例えば、東大医学部も、A型の基礎研究でノーベル賞を目指す学生もいれば、B型の日本の臨床技術を薬や医療機器や病院の輸出の形で国際貢献することをめざす学生もいれば、C型で、将来、地域医療に従事し、また、地域ごとの医療政策に深く関与することをめざす学生もいますので、そのバランスが、それぞれの地域特性、社会状況によって、異なるということだと思います。A,B,Cいずれも大事な仕事です。


 そうなると、冨山さんが言うように「L型大学では六法を広く浅く学ぶ法学部の必要性は低くなる」ではなくて、私なら超高齢化社会を見据え、法学部ではなくむしろ地域医療福祉関係の学部をしっかり整備し、医療や福祉の知識や技能を磨き、合わせて、その学部のカリキュラムのなかで関連法も合わせて徹底して学ぶ体制づくりをし、C型人材の育成に注力すべきと考えます。


 少子高齢化、人口減少、労働生産性、地方創生——大学全入時代にあって、日本社会が直面する課題を解決する人材づくりをどうするか、グランドデザイン作成がいままさに求められています。このタイミングで文科省に復帰した私も、これまでの知識、経験をフル活用して取り組んでいくつもりです。

(東大・慶大教授、元文部科学副大臣、前参議院議員)