江戸瓦版的落語案内 Rakugo guidance of TOKYOHEADLINE 目黒のさんま(めぐろのさんま)

落語の中には、粗忽、ぼんやり、知ったかぶりなどどうしようもないけど、魅力的な人物が多数登場。そんなバカバカしくも、粋でいなせな落語の世界へご案内。「ネタあらすじ編」では、有名な古典落語のあらすじを紹介。文中、現代では使わない言葉や単語がある場合は、用語の解説も。

 ある日、江戸城の松平出羽守という城主が、目黒不動尊の参詣もかね、早朝から鷹狩りに出かけると言い出した。言うやいなや馬を走らせる殿様。それを見て慌てたのが家来たち、見失わないようにと、取るものも取らず殿を追いかける。家来を振り切るように馬を走らせ、気がついたらお昼時。馬から降りた殿様のお腹がグーとなる。「これ、腹が減ったぞ。弁当をもて」。びっくりしたのは家来たち。何せ急な出発で弁当の用意がない。食べるものがないと言われると、どうしても食べたくなるのが人の常。殿様がごねだした。そこへプーンとなにやら芳しい香りが。「やや、何だ!? このおいしそうな香りは」「おそれながら、秋刀魚という魚にございます」「秋刀魚とは何ぞや?」「黒くて細長い魚にございます」「よし、それをもて」「しかし殿様、秋刀魚は下様の下人が食べる下魚でございまして、殿のような高位の方が召し上がるようなものではございません」「黙れ! 戦場で食べるものがない時はどうする。下々のものが食べているものを食さねばならぬ時もあろう。いいから持って参れ」。というわけで殿様、近所の百姓が焼いていた秋刀魚をわけてもらい、一口食べると…。「やや、なんとも美味。今まで食べたことがないが、こんなおいしい魚があったのか」。大満足して、城に帰った。それから考える事といえば、秋刀魚のことばかり。しかし、家来たちから殿様に秋刀魚を食べさせたなどと言うと、どんなお咎めを受けるか分からないので、ご内聞にと頼まれていた。しかしある日、親類の宴会に招かれ、好きなものを用意すると言われ、迷うことなく秋刀魚をリクエスト。料理人は日本橋の魚河岸に行き、秋刀魚を買ってきた。しかし脂がたっぷりのった秋刀魚を見て、殿の体にさわってはいけないと、脂を落とし、小骨が残っていたら失礼と毛抜きで小骨を取り、あげく裏ごしして、つくねのように丸めてお吸い物に。細長く黒く焦げ、脂がジュージューいっている秋刀魚を楽しみにしていた殿様は訝しがるも、ほのかに残る秋刀魚の香りにつられて口をつけたが何とも味気ない。「これ、この秋刀魚はどこから仕入れたのだ」「日本橋魚河岸から仕入れました」「それはいかん。やっぱり秋刀魚は目黒にかぎる」

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