江戸瓦版的落語案内 Rakugo guidance of TOKYOHEADLINE 千両みかん(せんりょうみかん)
落語の中には、粗忽、ぼんやり、知ったかぶりなどどうしようもないけど、魅力的な人物が多数登場。そんなバカバカしくも、粋でいなせな落語の世界へご案内。「ネタあらすじ編」では、有名な古典落語のあらすじを紹介。文中、現代では使わない言葉や単語がある場合は、用語の解説も。
船場の大店の呉服屋の若旦那が原因不明の病で寝たきりに。名医に見せるも、これは心の病なので、その心配事や悩みを解決すれば、回復するとのこと。旦那は古くからの番頭を呼び「お前は小さなころからせがれの面倒をよく見てくれた。きっとお前になら話してくれるだろうから、何としてでも聞き出しておくれという。番頭の説得にやっとその口を開いた若旦那。「みかんが食べたい」。
番頭あっけにとられ、「なーんだ。そんなことですか。おやすいご用です」と安請け合いをし、旦那に報告へ。番頭の話を聞いていた旦那、「今は真夏。土用の8月、この暑いさなかのどこにみかんが売っているというのだ。今さらみかんがないと分かったら、糠よろこびをしたせがれは、気落ちして死んでしまうかもしれぬ。そうなったら、お前は主人殺しとして、市中引き回しの上、磔の刑にしてやる!」とえらい剣幕。大慌てで番頭、江戸中の八百屋という八百屋を片っ端から駆けずり回る。その必死の形相に、こんな時期にみかんなどあるわけがないと言っていた八百屋も、神田多町の柑橘問屋、万惣に行けばあるかも知れないと教えてくれた。藁にもすがる思いで訪ねると、真冬のうちから貯蔵している蔵にあるかも知れないとのこと。蔵の中を調べてもらうと、たくさんのみかんの中から、たった1個だけ、腐っていないみかんがあった。
よろこび勇んで値段を聞くとなんと千両だという。柑橘問屋曰く「のれんにかけて、何年に一度しかない真夏のみかんの注文のために、蔵をひとつと何百個というみかんを無駄にして保管しているのだから、決して安くない」。意気消沈してお店に帰って旦那に報告すると、旦那は「せがれの命が千両で買えるなら安いものだ」とポンと千両を出した。千両と引き換えに買ったみかんを若旦那に持っていくと、念願かなった若旦那がさっそく皮をむく。中にはみかんが10袋。ひと口百両の計算だ。「3袋目、300両…5袋目、500両…。あーあ、そして7袋目、700両」と番頭が見ていると若旦那、残り3袋を番頭に渡し「あとは1袋ずつ、両親と番頭で分けてください」。あずかったみかん3袋を見ながら番頭「来年あたり暖簾分けしてもらえそうだが、その支度金としてもらえるのはせいぜい30両から50両…。でもこのみかんは300両…」番頭、みかんを3袋持って、夜逃げしてしまった。