「東京の地ビール」を訪ねて 福生・石川酒造
蔵見学も大人気! 多摩の老舗酒造
その小規模生産のスタイルから、主に生産地周辺で流通するため“地ビール”とも呼ばれるクラフトビール。地方だけでなく東京でも、地元の豊かな恵みを生かした地ビールが作られている。そんな東京自慢の地ビールを訪ねてやってきたのが石川酒造。こちらは17世紀初頭から続く名家・石川家が1863年に創業した多摩の老舗酒造。日本酒〈多満自慢〉は東京の地酒として広く知られているが、もう1つ忘れてはならないのが日本酒と同様にこの地の天然水を使ったクラフトビール。1998年に発売さた〈多摩の恵〉に続き、この春発売された新たなビールが好評と聞き、石川酒造を訪ねてみた。
再挑戦が生んだ「東京の地ビール」
「実は明治に一度、ビールを作っていた時期があるんです。ただ当時は日本にビールが入ってきたばかりということもあり、品質を評価されながらも2年ほどで撤退したという経緯があるんです」。そう明かしてくれたのは石川酒造のスタッフ・小池さん。「以来ビール造りは石川家の悲願でした。つまり、石川酒造にとってビール造りは“再挑戦”だったんです」。石川酒造の敷地内には、明治時代にビールを醸造する際に使われていた巨大な釜が残されている。ビール造りを断念した後、別の場所に置かれていたため偶然に戦時中も徴収されることなく残ったという貴重なものだ。
歴史ある空間で極上料理とともに
ここ石川酒造は、蔵見学スポットとして高評価されている場所。門の前に立った瞬間に歴史を感じる佇まいに迎えられる。緑に囲まれた敷地内には、明治時代に建てられた建築物が並ぶ。酒造りが行われている本蔵、熟成に使われている新蔵、石川家の門だった長屋門など、いずれも国登録有形文化財に指定されている。樹齢400年の〈夫婦欅〉、樹齢700年のご神木のケヤキなど見事な巨木も建物とともに歴史を伝えている。
もう一つの人気の理由が、敷地内にあるイタリアンと和食のレストラン。日本酒とビールの両方を楽しめる石川酒造だけに、料理と酒をそれぞれのスタイルで楽しめるのはうれしい。
またこちらでは年末年始などを除き基本的に要予約で毎日蔵見学を受け付けている(1日3回 所要時間は約1時間)。レストランは地元の人にも人気なので、レストランを利用したい場合は合わせて予約しておくと良い。近年は海外からの蔵見学者も増えているとのことで、ガイドツアーは英語にも対応している。
「2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控えて”東京で醸す、東京の名を冠した”東京の地ビールとして愛されるようになればうれしいですね」と小池さん。最初にビールと出会った東京人の感動に思いをはせながら、乾杯してみたい。
1.今では使用していない井戸を利用して、売店で購入したお酒を飲むスペースに。「毎日のように来てここで飲んでるよ(笑)」と近所に住む男性。『TOKYO BLUES』も大のお気に入り 2.石川酒造のご神木とされている樹齢700年のケヤキの巨木 3.敷地内にあるイタリアン レストラン『福生のビール小屋』 4.この春、新発売された『TOKYO BLUES』330ml466円(税別)
そんな石川酒造100年来の夢の結晶、それがこの春新発売された〈TOKYO BLUES〉。煮沸工程の終了間際にホップを全量投入するというレイトホッピング製法を採用。飲む前にホップが華やかに香り、口に含めば豊かなコクと、柑橘系のフルーティーな香味が広がる。のどを駆け抜けるシャープな苦みを楽しみながらも、後味はすっきり。クラフトビールらしいインパクトがあるが、アルコール度数が4.5度と低く、どんなスタイルにも合わせやすいセッションエールタイプ。「うれしいとき悲しいとき、それぞれの場所で人の感情=ブルースに寄り添うビールをイメージしました」と小池さん。
イタリアン レストラン『福生のビール小屋』火曜休み(TEL:042-553-0171)、和食『雑蔵』木曜休み(TEL:042-530-5057)※ともに予約がおすすめ