新国立競技場問題 安藤氏の会見翌日に安倍首相が計画見直し表明
迷走の続く新国立競技場の問題が大きく動いた。16日にはデザインコンペで審査委員長を務めた建築家の安藤忠雄氏が総工費が問題化して以降、初めて公の場に姿を現し、デザイン選定理由などを説明した。
日本スポーツ振興センター(JSC)が建設計画案を報告した7日の有識者会議への欠席については、当日は講演会と昨年行った膵臓と脾臓を全摘出する手術の影響で体調がすぐれなかったと説明した。
総工費の高騰を招いた女性建築家、ザハ・ハディド氏のデザイン選定の責任を問われると「選んだ責任はある」と認めながら「(総工費の)2520億円は私が決めたわけではない」と話し、批判が噴出する総工費の膨張に“関与”したとみられることに不快感をのぞかせた。
デザインについては「残してほしい」とし、それに伴う総工費の解決策については、工事を請け負うゼネコン業者に矛先を向け、「もうからなくても『日本の国のために、日本の誇りのために頑張る』と言っていただけたら、値段もうまくいく」と持論を展開した。
安藤氏の会見は約30分間。その後、JSCの鬼沢佳弘理事は報道陣に現時点での計画変更は「日本の信用にかかわる」との認識を示した。
しかし一夜明けた17日には安倍晋三首相が計画見直しを正式表明。下村博文文部科学相と遠藤利明五輪相に新たな計画の作成に着手するよう指示した。東京五輪大会組織委員会会長の森喜朗元首相、下村、遠藤両氏と官邸で会談後、記者団に「現在の計画を白紙に戻し、ゼロベースで見直す。そう決断した」と語った。
下村氏も同日、記者団に、「コンペをやり直す。半年以内にデザインを決め、設計から50カ月強の20年春の完成を目指す」と述べた。19年9、10月に行われるラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会の会場として新国立競技場は使用できなくなる見通しだ。
東京五輪の大会組織委員会会長の森喜朗元首相は会談前に行われたBS番組収録で、「見直したほうがいい。もともとあのスタイルは嫌だった」と述べ、計画見直しを容認。22日には日本記者クラブで会見し、「大変迷惑している。組織委員会がこうしてくれ、ああしてくれといったわけでも何でもない」と述べ、組織委に責任はないとの認識を示した。
22日にはJSCが、すでに国内外の設計事務所や工事を請け負うゼネコンと計約59億円の契約を結んでいたことが発覚。これらの業務の大部分は完了済みで支払いも終えており、大半の支払金は戻らない見通しという。
その内訳はハディド氏の事務所に対するデザイン監修料約14億7000万円▽基本設計や実施設計などを担当した日建設計など4社に約36億4000万円▽大成建設と竹中工務店への技術協力者として約7億9000万円。
文科省はハディド氏とは契約解除時に違約金を支払う条項は設けていないと説明しているが、五輪競技場のデザイン実績を失ったことに対する損害賠償を求められる可能性があるという。