小池百合子のMOTTAINAI
新国立競技場 平成版「空気」の研究
梅雨が明けたとたんに、永田町の「空気」に変化が生じています。各種世論調査では、安倍政権不支持が支持を上回るものも出てきました。
安全保障関連法案での衆院採決に加えて、新国立競技場問題、直接政治には無関係ですが、名門企業・東芝の利益水増し経理問題などが相まって、暗雲が立ち込めてきたといった感じです。
安保法制については、ありがたいことに戦後70年の長きに渡って、国内の平和を享受できたものの、それゆえにテーマそのものへの拒否感が強い。ミサイルだの、軍艦だのといったハードな言葉を聞いただけで耳を塞いでしまうため、なかなか国民の理解が深まらないのが現実です。
どう考えても、安保法制を実施した場合、リスクは高まると考えますが、安倍総理などの答弁で「リスクは別次元」と言い切ってしまっては国民の不信がかえって募るものです。むしろ、率直にリスクについて語り、わが国の現状、今後のあり方を論じることが、国民の理解につながると思います。
安保法制審議もいよいよ参議院に舞台を移しますが、与野党ともに「良識の府」を体現してほしいものです。
日本人にはイメージしにくい安保法制と違って、2500億円もの建築費が必要な新国立競技場問題はとても分かりやすいテーマです。当初の予算、1300億円だけでも「高い!」と思われていたのに、その2倍と聞けば、批判の的となるのは自明の理でした。
何よりも五輪選手の強化費にしわ寄せがいくとなっては合点がいきません。仏よりも仏壇にお金をかけることになるではありませんか。安倍晋三首相がようやく「ゼロベースでの見直し」を決めたものの、遅きに失した感があります。
冒頭、「空気」と表現したのには、昨今の様々な問題には、山本七平氏が記した『空気の研究』を思い出したからです。曰く。「『空気』とはまことに大きな絶対権をもった妖怪である」と。「専門家ぞろいの海軍の首脳に、『作戦として形をなさない』ことが『明白な事実』であることを、強行させ、後になると、その最高責任者が、なぜそれを行ったかを一言も説明できないような状態に落とし込んでしまう」。
東京へのオリンピック・パラリンピック誘致の際は、誰もが誘致成功の手柄を競い合ったのに、今や責任の所在が不明です。東芝問題も過去の経緯が洗い出されつつありますが、得も言われぬ社内「空気」の支配があったのでしょう。
「空気」という妖怪に惑わされないためにも、自己を確立し、現実と将来をみる的確な情報入手と理解が欠かせません。そろそろ日本の空気症候群から脱皮したいものです。
(自民党衆議院議員)