小池百合子のMOTTAINAI
壁、壁、壁…。世界は壁建設ラッシュが続いている。

 来年11月のアメリカ大統領選を前に、共和党大統領候補の一人、大富豪のドナルド・トランプ氏の怪気炎が燃え上がるばかりです。本命と見られているブッシュ前大統領の弟でフロリダ州知事のジェブ・ブッシュ氏の姿がかすむほどの存在感を示しています。

 曰く。「メキシコ人は強姦犯だ」「メキシコ国境に壁を建設する。負担はメキシコ側さ」と言いたい放題。不法移民に対して抱く複雑な思いをあっけらかんと言い放つトランプ氏を「痛快」と受け止める庶民から絶大な支持を受けているようです。

 かたやブッシュ知事の妻はメキシコ人。全米の総人口の約17%を占めるヒスパニック系の大票田確保には有利とされますが、トランプ氏の参入でそれ以上のアンチ・ヒスパニック票をかっさらわれる状況というわけです。

 アメリカ大統領選はこれからますますヒートアップするでしょうが、どこまで放言トランプ氏が「おもしろい」候補として生き残れるかは不明です。

 さて、トランプ氏の「壁建設」発言ですが、現実に世界の各地で壁建設の動きがあります。

 内戦状態が続くシリアから隣国トルコへ流れる難民はすでに250万人に達したと言われ、加えてIS(イスラム国)の往来もあります。シリア難民がトルコ国民の商売や職を奪ったり、シリア難民のこどもがイスタンブールなどで物乞いにうろつく状況が続くことから、トルコ政府はシリアとの国境に現代版万里の長城ともいえるコンクリート製の壁の建設に踏み切りました。

 同じく、サウジアラビアもイラクからのISの流入防止に約900㎞ものフェンスを建設。監視カメラなどハイテクを駆使した壁の一種です。エジプトはシナイ半島を拠点とし、テロ活動を行う危険性があるとされるムスリム同胞団系人物の移動を塞ぐためのフェンス、壁建設を検討していますし、日本人観光客も巻き込まれたようなテロ事件が頻発するチュニジアでもリビアとの国境に壁を建設する計画です。高さ2mの壁を170㎞に渡って建設するとのこと。

 中東で壁建設をいち早く行ったのはイスラエルです。2007年頃からパレスチナとの境に分離壁を築き、ガザでは人も物資の移動を遮断され、食糧確保にも困窮する状況です。

 2014年以来、東部地域を親ロシア系に武力で奪われたウクライナは、これ以上の侵攻を防ぐためのフェンスを築きました。

 ベルリンの壁が崩壊して26年。今日、SNSの発達で情報が国境を越えているのにもかかわらず、物理的な壁が建設ラッシュとなっているのは、皮肉です。

 これまでの体制の行き詰まりとともに新たな時代の到来を告げているようにも思えます。
(自民党衆議院議員)