仲村トオル 太宰原作の舞台『グッドバイ』でKERA・MAP再始動!
ナイロン100℃の主宰で劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチが劇団とは違った実験的な作品を作る場としてスタートした「KERA・MAP」。その7年ぶりの公演が9月12日から上演中だ。タイトルは『グッドバイ』。KERAによって太宰治の未完の遺作『グッド・バイ』が全く新しい作品となってよみがえった。
物語は主人公の男・田島が多くの浮気相手たちと別れるために妻とは別の美女を妻に仕立て上げ、女たちに会わせていくというもの。その田島を演じるのが仲村トオル。KERAの舞台作品は2010年の『黴菌』、昨年の『夕空はれて〜よくかきくうきゃく〜』に続き3度目となる。
出演する前からKERA作品は見たことがあった? そしてどんな感想を?
「はい、ありました。ストーリー、セリフ、ト書き…といったKERAさん自身が脚本に書かれたであろうことに加え、映像や音楽も含めて、初見時の印象は“巨大な才能が迫り来る”という感じ。自分がKERAさん作品の稽古場を経験してからは、多くのスタッフの方たちの能力を束ねる力もすごくある方だと実感しました」
今回は太宰作品。太宰の作品にはどんなイメージを?
「暗い話なんじゃないかとか、読んでも楽しくないんじゃないかという先入観があって、読まなかったんですね。10代のころ『人間失格』というタイトルを見て、“そんなこと分かってるよ!”って思ったような記憶もありますから(笑)」
演ずる田島は太宰の生き方が投影されている。こういう生き方ってどう思う?
「だらしないなって思いますよ(笑)」
あのモテ方は羨ましいとかは?
「現実の世界にいるモテる男たちがみんなそうなのかは分からないですけど、少なくとも田島に関して言うと、モテモテというよりはユルユルなんだという気がします。普通の人だったら、もっと手前でブレーキを踏むところで、ブレーキを踏むのが遅いうえにブレーキがあまり効かないゆるいもので、しかもシートベルトをしていないから激突して怪我をするということの繰り返し。あるいはある意味すごくポジティブというか寛容。田島は冷静に考えたら職業上当たり前のこと、もしくはささやかな親切を、ものすごい愛情だと思う。もしくは自分の愛情が芽生える種にするんです。すごくポジティブですよね。我慢するというブレーキもなく、別れるというけじめというか決断もできない人が何人もの愛人を抱えることになるんだなというふうに思います」
今回は出ずっぱり。結構なセリフ量。
「ですが、こんなに楽観的でいいのか?って自分で思うくらい不安はないんです。稽古中にもちろん覚える作業で葛藤したり、表現する作業で試行錯誤はあって。でも、過去2作で生まれたKERAさんに対する信頼感とでもいうんでしょうか。最終的には面白い作品になった、という成功体験があるからこその楽観、ということだと思いますね。一緒に舞台に立つ人たちも、精鋭というか強者たちなので、それも含めて焦りは感じなくて済んでいます」
田島は世の男性から見ると「だらしないな」って思いながらも、心のどこかでは「ちょっと羨ましいな」って思ってしまうキャラクター。
「それはそうだと思います。さっきお話したブレーキの話で言うと、僕自身がブレーキは大事だろうって思っているんです。なぜかというと、そこは多分自分の中でも危ういところだと思っているから」
危ないというのは、そこでブレーキを踏まないと…。
「自分も田島のようになってしまう。そんな気はしますね。田島はキヌ子に対してとてもみっともない態度を取るんです。“そんなみっともないことしちゃダメだろ”って思うんですが、どこかで多分、“そんなことができたらいいな”っていう自分がいる。自分の中にも少なからず田島的要素はあるから、そこは早めにブレーキを踏まなきゃダメなんだって、自分に言い聞かせているのかもしれません」
物語が進む中で田島と愛人たちの間で、付き合ううえでの意識の違いが浮き彫りとなってくる。
「食べ物に例えるのもちょっと申し訳ないんですが、付き合っているときは“あんたの作る料理のほとんどは美味しくないけど、これだけは美味しいからこの店に来る”といった感覚で、別れる時は“あんたのところはこれしかないから客が来なくなったんだ”と言われちゃうような感覚。田島という人間のある一面だけ愛している女性にとっては田島全体を愛するのは重荷でしかない。でも実は田島自身も一人の女性の全部を愛しているわけではなくて、一部分しか愛していない。だから愛人の数が増えていく、ということなのではないでしょうか」
キヌ子役の小池栄子とは映画でも共演の経験がある。
「テクニック、パワーを兼ね備え、しかもそれを発揮するスピードがすごく早いという印象があります」
劇中のように、引っ張られる存在?
「原作のキヌ子は、田島に、美声でないから“黙っていろ”と言われてしまう。黙っていれば美人だということなんですよね。ただ、悪い声を作って舞台で何十日も出し続けるのは、さすがに難しいというKERAさんの考えもあって、そうではない方向で稽古をしていたんです。でも“とにかく愛人たちの前では一言も口をきいてくれるな”というセリフはあって、それは失言・暴言の可能性のあるおバカさんなんだから喋るなよ、っていう考え方にもとづいたセリフとして言っていたわけですが、僕はいまひとつ説得力をもって発せていないな、と思っていたんです。そう思っていることをアピールしたつもりはなかったんですけど、小池さんがある日、声と喋り方をちょっと変えてくれた。そうしたら僕のそのセリフの説得力が増してきた。僕自身が何かしたわけではないんです。小池さんが微調整をしてくれたことによって、僕のセリフのクオリティーが高まるというありがたい結果になった。そういうことも含めて本当に頼りになっています」
仲村トオルといえば、作品に合わせたストイックな体作りも話題となる。例えば今春出演したNODA・MAPの『エッグ』(再演)での粒来幸吉役は記憶に新しい。普段もあの体はキープしている?
「いや、それはないですよ。でも2〜3週間…だと最近は厳しいかな…。2〜3週間くらいで、マッチョな役も病弱な役もできるようなニュートラルな身体状態を保とうとは思っています。『エッグ』は自分としては再演のときのほうが頑張ったつもりなんですが、この前、再演の映像を見たら、“あれ? そうでもないなぁ”って…(笑)」
ストイックな仲村が “ユルユル”の田島をどう演じてくれるのか興味深いところだ。(本紙・本吉英人)
【日程】9月12日(土)〜27日(日)【会場】世田谷パブリックシアター(三軒茶屋)【料金】S席8800円、A席6800円(前売・当日共)/U24:5800円/高校生以下割引:4800円 ※当日券有り。【問い合わせ】世田谷パブリックシアターチケットセンター(TEL:03-5432-1515)[HP]http://cubeinc.co.jp/)【原作】太宰治(グッド・バイ)【脚本・演出】ケラリーノ・サンドロヴィッチ【出演】仲村トオル、小池栄子/水野美紀、夏帆、門脇麦、町田マリー、緒川たまき/萩原聖人、池谷のぶえ、野間口徹、山崎一