家の中には秘密（ドラマ）がいっぱい『我が家のヒミツ』

『家日和』『我が家の問題』に続く奥田英朗の家族小説シリーズ第3弾。家族という、社会の中で最も小さな単位の組織の中で巻き起こる、日常のささいな出来事。しかし、ささいだけど、本人や家族にとっては特別な出来事を、ユーモアと愛しさをもって描く。31歳の敦美の悩みは不妊。そんな時、勤めている歯医者にずっとファンだったピアニストが通院するようになり…（「虫歯とピアニスト」）。

　同期のライバルの昇進が決まり、53歳で会社での出世レースに完敗したことが分かり意気消沈する植村。有給をとって妻と旅行に行っている時に、ライバルの父親が死んだという連絡が。（「正雄の秋」）。

　16歳の誕生日に、実の父親に会おうと決めたアンナ。いざ対面すると、ハンサムでお金持ち、そして一流演出家として芸能界でも顔が広い有名人だということが判明し…（「アンナの十二月」）。

　母が急逝し、憔悴しきった父親を心配し、実家に戻った息子。そのあまりの落ち込みぶりに、どうすることもできない息子に、会社の上司が何かと話しかけてくる（「手紙に乗せて」）。

　隣りに引っ越してきた夫婦が息を潜めるように生きているのが気になって仕方がない妊婦の葉子。犯罪者かスパイではないかと疑い出し、ついに行動を起こす（「妊婦と隣人」）。

　平凡な専業主婦だった妻・里美が突然選挙に立候補すると宣言。小説家の夫ははじめ、距離を置いてその様子を眺めていたのだが、選挙活動をする妻の姿を見ていると心境の変化が現れる（「妻と選挙」）。

　どこにでもありそうな家族の話が、切なく、ユーモラスに、そして優しく描かれたほっこり系の短編集。