江戸瓦版的落語案内 長屋の花見(ながやのはなみ)
落語の中には、粗忽、ぼんやり、知ったかぶりなどどうしようもないけど、魅力的な人物が多数登場。そんなバカバカしくも、粋でいなせな落語の世界へご案内。「ネタあらすじ編」では、有名な古典落語のあらすじを紹介。文中、現代では使わない言葉や単語がある場合は、用語の解説も。
とある貧乏長屋の大家から店子に呼び出しがかかる。どうせ店賃の催促だろうと、店子が集まり作戦会議。「ところでお前はいくつ店賃を貯めているんだ」と聞くと「3年」「おやじの代からためている」「店賃ってなんだ?」という者ばかり。戦々恐々、恐る恐る大家のところに行くと、店賃の催促ではなく、花見へ行こうという誘い。「世間から貧乏長屋なんて言われているが、ここはひとつ景気よく花見でもして、貧乏神を追っ払おうじゃないか」ということらしい。花見といっても貧乏人だけなので、渋っていると、酒と肴は全部大家が用意してくるとのこと。店子たちは大喜びで、上野の山へ向かった。
といってもそこは貧乏長屋の大家。一升瓶3本の酒はラベルが違うものの、すべて番茶を薄めたもの。お茶けでお茶か盛りが始まった。でも所詮は薄めたお茶。まずいってんで、一口飲んで捨てる者も。「熱燗をつけねえ」「焙じてるよ」。では肴でも食べて気を紛らすかと思ったが、よく見れば蒲鉾ではなく大根、玉子焼きではなく沢庵という調子。大根蒲鉾をつまみながら「そうそうこの蒲鉾、毎日おつけの実にして食べます。胃が悪い時には蒲鉾おろし、最近じゃ練馬のほうでも蒲鉾畑が少なくなりまして…」。またある店子は「玉子焼きくんねえ、尻尾じゃないところを」とどうにも気分が上がらない。ちょいと盛り上げようと大家が熊さんに「お前は俳句に凝っているんだから、ここで一句読んで聞かせろ」というと熊さんは「花散りて死にとうもなき命かな」「散る花を南無阿弥陀仏と夕べかな」「長屋中歯をくいしばる花見かな」と陰気な句ばかり。お茶に大根に沢庵とはいえ、用意した大家は面白くない。「お通夜じゃないんだ。いつもずいぶん面倒見てやっているじゃないか。もっと陽気に酔っ払え」と店子に命令。
ヤケクソになった店子が「おう、酔ったぞ、酔ったぞ。俺はお茶じゃなくて、酒を飲んで酔っ払ってんだ!貧乏人だからって馬鹿にすんなよ」「ずいぶん酔うのが早いな」「酔うのも早いが、冷めるのも早い」「てやんでい! こうなったら金輪際、店賃なんて払わないぞ!」「酒癖が悪いな。こいつは渋口だが、お前の飲んでいるのは灘の生一本かい?」「いや、宇治だ」「酔った気分はどうだい?」「昨年井戸に落っこった時とそっくりだ」と、その時別の店子が湯呑の中をじっと見て、「大家さん、近々長屋にいいことがありますぜ」「何で分かる」「酒柱が立っている」