見終わってからがもっと怖い!? 映画『残穢』主演・竹内結子 × 監督・中村義洋
第26回山本周五郎賞を受賞した小野不由美のベストセラーを『予告犯』の中村義洋監督が映画化! 主演に中村作品のミューズでもある竹内結子を迎え、橋本愛、佐々木蔵之介、坂口健太郎、滝藤賢一ら豪華キャストとともに贈る、戦慄の“リアルミステリー”。中村監督&竹内が語る、本作の本当の恐ろしさとは…!?
竹内、怖すぎて脚本読めず!?
読者から寄せられた体験談をもとにミステリー連載をしていた作家“私”のもとに、ある日届いた一通の手紙。なんの変哲もないマンションに住む“久保さん”は、和室の畳をするような音に悩まされているという。手紙を読んで、あることに気付いた“私”は久保さんと一緒に、そのマンションにまつわるいわくを調べ始めるが…。“部屋に置いておくだけで怖い”とまでいわれる原作を、恐怖系モキュメンタリーの人気シリーズ『ほんとにあった! 呪いのビデオ』を手掛けた中村監督が映画化するということで、早くからファンの注目を集めていた本作。しかし映画化にあたり思わぬ“問題”が発生したという。
中村義洋監督(以下:中村)「竹内さんに主人公役をオファーして脚本を送ったんですけど、1カ月くらい読んでくれなかったんです(笑)。さすがに1カ月ともなると、何か別の仕事が入ってしまったのかとか、こちらも少し心配になったんですけど、メールでやりとりするうちに、どうやら本当に怖くて脚本が読めていないらしい、と分かって(笑)。期限が迫ってきたので、会って話をしたときも、まだ斜め読みの状態だったしね。(橋本愛演じる)久保さんは男性キャラですよね、って(笑)」
竹内結子(以下:竹内)「ご心配をおかけしました。本当に怖くて、必死で目を通したんですけど、それでも自分のところを読むのがやっとで(笑)。最終的にはきちんと全部読むことができましたけど」
中村「最初からこんな具合だったから、出来上がった映像を見たらどうなっちゃうんだろう、と思っていましたね。だから、初号試写のときは竹内さんの様子を主に見ていました(笑)。でも実は竹内さん、最初の試写のとき、ほとんど画面を見ていなかったんですよね?」
竹内「そうなんです。1回目に見たときは後半ほぼ目を閉じて音だけ聞いていました(笑)。これは危ないな、と思った瞬間に目を閉じてしまったので、本当に怖いシーンはほぼ見られず…。2回目は、きちんと目を閉じずに見ましたよ。監督に“ちゃんと見なかったら『時計じかけのオレンジ』みたいに(まぶたを閉じられないように)してやるからな”と言われましたし(笑)」
中村「で、どうでした?」
竹内「本当に怖かったです!!」
中村「それなら良かった(笑)」
竹内「音だけでも怖かったんですけど(笑)、実際に全部を見たら想像で怖がっていたときよりもっと怖くなりました。見終わった後も怖いシーンの数々を具体的に思い出してしまって。今、家の廊下の角が怖くて廊下の電気を消す時は消したら即、扉を閉めていますし、目を開けて背後を気にしながらシャワーしています」
中村「だんだん平気になりますよ、2~3日くらいで(笑)」
竹内「いえ、1度忘れてもまたフラッシュバックするんです。本当にトラウマみたいなものですよ(笑)」
中村「それはあるかもね」
竹内「誰もいないのに人感センサー式の電気がついたり、そういうことは日常でもよくあるなあと思うとよけいに、あれ…今のは?と思うようになってしまって(笑)」
竹内は日本映画史上に残る恐怖映画『リング』にも出演しているが…。
竹内「そういえば『リング』のときに恐ろしい思いをして以来、そういうものを避けていたんですよね」
中村「『リング』はちゃんと見たの?」
竹内「見ました。で、これはダメだぁ…と」
中村「泣いた(笑)?」
竹内「家に帰って泣きました(笑)。当時の部屋で、電源を落としてもテレビが怖くて“テレビから何かが出てきそうです!!”と社長に訴えました(笑)。今回は、それ以来の恐怖ものだったので、当時のことを自分でも忘れていたんですよね。単純に、中村監督からお話をいただいたので、やらせていただきます、と答えたんですけど…深く考えていなかった(笑)。なんとかいけるだろう、と自分でもどこかたかをくくっていた部分もありましたし」
中村「出演したいです、でも脚本読めてないです…って、最初はなんだかよく分からなくて(笑)」
竹内「本当にすみません(笑)」
“恐怖映画”より恐ろしい!?
主演女優にここまで怖がってもらえたら監督冥利に尽きるというものだが…。
中村「でもまあ、竹内さんの役は直接、恐怖体験をする場面が少ないですからね。不審な電話をとる場面と、クライマックスの廃屋に行く場面くらいで」
竹内「主人公の“私”は傍観者的な役なので助かりました。“私”は超常現象を信じていないし、怖がらない人物と監督から聞いていたので“私”はそういうものを信じていないし、怖いと思わないし怖いものも見えないし…と、おまじないのように常に思いながら、現場にいましたね(笑)。監督から、淡々としていてください、と言われたとおり演じていたんですけど…」
ところが何と中村監督が“ドッキリ”を竹内に仕掛けたという。
竹内「“私”が不審な電話をとるシーンがあるんですが、リハーサルのときと全然違う声が受話器から聞こえてきたんです。それまでは助監督さんの声で、全然怖くなかったんですけど、本番で突然まったく違う声が…。もう、わああー!となって、受話器をポイ、と(笑)」
中村「まああれは、イタズラというか、フレッシュな反応を得ることができるので(笑)。今回、リハーサルからずっとカメラを回していたのも、それが理由なんです。おかげでいい表情が取れました(笑)。“私”のキャラではないリアクションだったけど、それがまた良かった」
竹内「そうなんですよね、それが悔しくて。まあ、あそこまでだまされたら心地の良いものです(笑)」
実はこの作品、一般的な恐怖映画とはまったく異質の怖さを持っている。リアルなドキュメンタリーテイストが、絶妙なのだ。そのリアルさは、中村監督が原作に共鳴した部分でもあるという。
中村「小野さんも体験談式の連載をずっとやっていて、僕も1999年と2000年に『ほんとにあった! 呪いのビデオ』という実録スタイルの作品を撮っていまして、その作品を小野さんがすごく気に入ってくださっていたことから、今回僕に監督をとお声掛けいただいたんです。確かに原作を読んでみて、通じ合うものを感じましたね。『ほんとに―』も、超常現象の原因を探って過去を解き明かしていく形の作品。まあ、フェイクドキュメンタリーなんですけど(笑)。やっぱり僕が怖いと感じるのも、その部分なんですよね。小さなことを手繰っていくと、どんどん恐ろしいことが明らかになっていく、という。なので原作を読んだときは合点がいった感じでしたね。ちなみに竹内さんは『ほんとに―』は見てないよね」
竹内「中村監督の作品は全部見たいと思っているんですけど…(笑)。そのリアルさが怖いんですよ。この作品も“私”にとってはドキュメンタリーみたいなものですし、こちらもその目線で実話のように感じてしまうんですよね。私の知人は原作を読んで、これは本当の話なんでしょ、と言っていたくらいでしたし。それが、映像だとさらにリアルさが増すんです。“私”と久保さんが土地の過去を調べていくなかで登場する人々もリアルで、本当にドキュメンタリーを見ているみたいだし。恐怖映画を見ている感覚じゃないんです。恐怖映画じゃなくて、とある現象を追いかけているドキュメンタリーとして見ているのに、なぜこんなに怖いんだろう…と」
監督の楽しみは竹内の反応!?
佐々木蔵之介、坂口健太郎、滝藤賢一ら豪華な布陣を揃えた中村監督だが、中村作品のミューズは何といっても竹内だ。
中村「『チーム・バチスタの栄光』のときからずっとそうなんですけど、竹内さんとはいつもお会いするのが楽しみ。“朝イチで会いたい”女優さんです。行動とかリアクションが、見ていて本当に楽しいんですよね。公私ともに(笑)。『ジェネラル・ルージュの凱旋』のときだったかな。控室のドアを開けたら、竹内さんが踊っていたことがあって(笑)」
竹内「え? 踊ってました?」
中村「目が合ったけど、無表情のまま…(笑)。ご機嫌なんだな、と思い、そのままドアを閉めましたけど」
竹内「たぶん、何かのエクササイズをやっていたんだと思います(笑)」
そんな竹内だけに、さらなる恐怖映画でのリアクションも楽しみ?
中村「それは思いますよね(笑)。今回は無かったけど、普通は“襲って”くるんですよ。ヒロインに向かってね」
竹内「まあ、そうですね」
中村「恐怖映画というのは、主人公がそこからどう逃げるかという話だから」
竹内「ああ…」
中村「だから次はガチで」
竹内「ガチで…私が襲うほう、というのはどうですか?」
中村「『ミザリー』みたいな(笑)?」
竹内「そうそう、ハンマーで足を砕くとか。そういうのは平気です。むしろやってみたいです」
中村「心霊系がダメなんだよね」
竹内「生きていている間は大丈夫なんですが霊になってしまった瞬間、ダメなんです。だから今回も過去の悲劇のシーンは普通に見ることができていたんです。ただ“死後”の這いずり回る何かを見ていなかったので2回目にきちんと見るまで彼らの正体が分かっていませんでした(笑)」
中村「僕はね、怖いのが大好きなんですよ。あのワクワク感が楽しいですよね」
竹内「ワクワク感…」
中村「子供のころから怖い作品は避けて通ってきたんですか?」
竹内「そうですね。小学校のときにお化け屋敷に行ったたことはあるんですけど。肝試しはやってはいけないものだと思っていました」
中村「僕は怖がるほうも好きだし、怖がらせるほうも好きなんですよね。今回も皆さんの反応が楽しみです」
映画館を出てからがお楽しみ!?
中村「必ず最後の最後まで見てほしいですね。この作品は、怖いものが好きな人にとっては一見“なんだ、こんなものか”と思えるような作りにしてあります。そう思わせておいて、最後の5分間に、怒涛のような恐怖シーンが待っていますので。この作品は実質、回想で構成されています。発端となる久保さんの体験にしても、久保さんの手紙の中での回想シーンなんです。実は、映画において時間軸というのはとても重要で、特に恐怖映画での回想はハンディになるんですよね。現在進行形で起きていることでないと直接的に感じないから。それが本作では怖い体験はほぼ回想で語られるので作り手からすると、けっこうなハンディがありました。最後の5分でやっと現在進行の恐怖シーンを描けたので、ぜひそこまで見てほしいです(笑)」
見終わった後に“回想”することで恐怖はよりリアルに…。
竹内「劇場を出た後から怖くなる作品でもありますよね。怖いのが平気な人やホラーが好きな人でも、見終わって劇場を出てすぐに“平気だった”とつぶやかないでください、と思いますね。家に帰って、1人きりの夜を過ごしてから感想をつぶやいてください、と。確実にもう一度怖い思いができるので(笑)。怖いのが苦手な人は…恐怖映画としてより、ある現象についてのドキュメンタリーとして楽しんでいただければ(笑)」
主演女優が見るのをためらうほどの恐怖を楽しんで。(本紙・秋吉布由子)
監督:中村義洋 出演:竹内結子、橋本愛、佐々木蔵之介、坂口健太郎、滝藤賢一他/1時間47分/松竹配給/1月30日より全国公開 http://zang-e.jp/http://zang-e.jp/