鈴木寛の「2020年への篤行録」第31回 AIの進化を見据えて自分を磨く時代
驚くニュースが飛び込んできました。グーグル傘下のベンチャーが開発した囲碁のAI(人工知能)、その名も「アルファ碁(AlphaGo)」が、世界最高峰の呼び声のある韓国の棋士と5局対戦し、4局で勝利しました。
すでにチェスは90年代後半、将棋は数年前にトッププロを破っていますが、碁は、チェスや将棋と比べて形勢判断が複雑とされ、「囲碁はあと10年程度はかかる」という予測もありました。AIが人間の知性を上回るシンギュラリティー(技術的特異点)が2045年頃に訪れるという話もありますが、チェス、将棋、囲碁の世界においてはシンギュラリティーの一足早い“到来”です。
前回、大学入試で記述式を大幅に増やす改革を論じましたが、その狙いの一つはシンギュラリティー時代への対応。工業化社会の名残で「教科書や先生に教わったことを間違いなくできるようになる」という人材育成では、もはや通用しません。コンピューターに置き換わる仕事がどんどん増えて行くでしょう。だからこそ、情報化社会の時代では、自分で物事を考えて、生産性を高めていかないとならず、考え、書く力を養う契機を作るのが入試改革なのです。
今年大学に入学した皆さんは、シンギュラリティーが起きるメドとされる2045年は50歳前後。まだまだ現役バリバリのビジネスパーソンです。そこまで待たなくても、囲碁や自動運転のように、シンギュラリティーが訪れるのがもっと早い分野もあることでしょう。つまり、皆さんは、未来を見据えた上で、人間でなければできないことは何かを常に考えながら、学問をし、師や友と語らい、自己研鑽をしていかないとならない時代に生きているのです。
人間でなければできないこととは何か? 私がひとつ思うのは、価値判断能力です。卒のない仕事を進めていくオペレーションの部分は機械に取って代わられていくにせよ、政治家が「福祉予算を高齢者向けから子育てに回す」、経営者が「今はこの事業で採算見通しがなくても将来必ず芽が出るから投資をする」などといった意思決定は、人間の領域です。過去にはない発想、イノベーションはまさにそこから生まれます。自分の価値判断能力を高めるにはどうすればいいか、その視点を常に持ち続けていきましょう。
(文部科学大臣補佐官、東大・慶応大教授)