鈴木寛の「2020年への篤行録」 第32回 熊本震災で痛感した“LINE世代”の力
このたびの熊本の大地震で亡くなられた皆様とご遺族に心よりお悔やみ申し上げます。また、被災された皆様にもお見舞い申し上げます。
私自身も東北の復興で、いくばくかの経験、人脈もありますので、微力ながらご支援していきたいと思っています。
さて今回の震災はITの観点から注目した事象が数多くありました。まず、大規模災害時の利活用が想定されていたドローンですが、国内では初の「実戦」になりました。国土地理院がドローンで被災状況を撮影し、テレビ報道で使われるだけではなく、ユーチューブにアップされた動画を国民が直接アクセスできるようになり、検証材料として社会的に共有されやすくなりました。
そして、LINEの利活用もポイントです。熊本地震は、スマートフォンの普及率が日本国内で50%を超えてからは初めての大規模震災になります。東日本大震災でもツイッターは情報伝達に活用されましたが、LINEは「3・11」を機に高まった、家族や仲間たちとの「絆」大切にしたい世相を反映するように登場し、瞬く間に世界的なコミュニケーションアプリに成長しました。今回はLINEにとっても大規模災害でどう活用されるのか真価が問われました。
熊本で東北の教訓が生かされなかった反省点の一つが、人や物資の需給ミスマッチです。震災直後から自治体には水や食料、生理商品などの支援物資が届けられているものの、避難所に必要な分を届けるだけの輸送体制が整っていないなどの事態が指摘されています。ミスマッチを解消するには、どこでどれだけの人、物が必要なのか情報共有が必要です。
自治体職員や地域の大人たちが手が回らない中、大活躍したのが、まさに「LINE世代」である熊本市内の高校生たち。各避難所の人数、お年寄りの比率、必要な物資、外部への連絡事項をヒアリングして、LINEで連絡を取り合い、ネット上にアップしました。私は大学等で教えている「LINE世代」について、「人にお願いをする時に電話一本できない」「チャットに慣れてしまった分、メールで体裁の整った文章を書けない」などと厳しく指摘してきた経緯がありますが、高校生たちは機動力に優れた、見事な対応だったと思います。
実は、地方創生や災害でITを利活用しようという時、一番のネックになるのは、便利なツールを使いこなす人材が少ないことなのです。巨額のシステムを構築するハードへの投資ばかりが、政策論議で浮上し、予算もつけられる傾向があるのですが、本当に大事なのはソフトなのです。財政難のご時世ですが、LINEのような身近なツールを使いこなして成果を出せれば、無駄なコストもかかりません。熊本の高校生たちの活躍は、テクノロジーを駆使できる人材育成という点でも大きな示唆を大人たちに与えました。
(文部科学大臣補佐官、東大・慶応大教授)