一木美里のおいしくたべようの会 vol.06『きなこの星に願いを込めて』
一木美里です。
9月も半ば、日中はまだまだ暑いけど、秋の夜風を感じられる季節になってきました。
毎月2週目のテーマは“わたしのレシピ”。夏の終わりの思い出と、わたしが作る定番お菓子をご紹介します。
わたしは星が好き。
空に輝く星も、モチーフとしての星も、スターという意味での星も全部。
だから1番好きなスイーツでもあるクッキーを焼くときは星型にする。
みんなで大好きな’’スター’’である歌姫のライブを観に行く日の朝、一緒に行く親友たちにあげたくて、昨日のうちに冷凍してあったクッキー生地を解凍した。
ーーー富澤商店のピーナッツきな粉クリームを丸ごとボウルに入れる。ピーナッツの濃厚な味の中に、きな粉の風味がする人気のクリーム。
ぼとっ、その重みがわかる鈍い音がする。冷蔵庫に残っていたバターを全部、常温に戻して加える。
もう1つのボウルに薄力粉と砂糖をふるいにかける。このふるいにかけている時間が好き。雪を降らせてるみたいな気分になるから。
神様が雪を降らせるのは、わたしがボウルにこうやって粉をふるうみたいな感覚なのかな?
雪が降ると電車が止まる、とか、寒いとか大騒ぎするけど、反対の季節から想う雪はなんだか恋しくて、ないものねだりだなぁと改めて思う。
二つのボウルの中身を一緒にすると、まだまとまりが悪くて、しっとりと1つに綺麗にまとまるまでココナッツオイルを入れた。1つにまとまった生地を見ていると満足感でいっぱいになる。一度まんまるにして、両手でぎゅっとして、それから端を少しだけつまんで口に入れた。おいしく焼けるクッキーかどうかは、このときの味でわかると思う。
CookieDough(クッキードウー)=生のクッキー生地、海外ではそのまま食べるのもよくあることで、その状態で販売されているのも一般的なんだそう。
アイスクリームと並んで、恋人にフラれたあとにやけ食いする食べ物の代表格でもあるんだとか。
失恋後にやけ食いできるときは立ち直りが早い、というのは大人に近づいてくると周知の事実。折れた心を直すより、体重を減らす方が楽だから、そんな友人がいるときには我慢せず泣いて、食べることを勧めて、それから笑わせようとするのがわたしたちのパターン。
解凍したクッキー生地を伸ばして分厚めに星型で抜いていく。並んだ星たちは少しのあいだ眺めていたくなるくらいにつやつやしていて綺麗。
オーブンを170度に温めて、15分ほど焼くと、香ばしい香りがぷんぷん漂う。
我慢できなくてあつあつのクッキーを爪先で掴んで食べながら、冷ました星たちをラッピングして持って出かける。
親友と、並んで星を口に加える。
ステージのライトが消えて、スタジアムの向こうにうっすら見える明るい星の輝きがわかるくらいに、会場内がお客さんが手に持つピンクのペンライトの明かりだけが充満して自分の瞳にもその明かりがキラキラ写っているのがわかった。一気に明るくなったステージの上にその“スター”居て、強さと愛と、それから切なさを含んだメロディーが聴こえてきて、切なさで胸がいっぱいに満ちてくる。
「でもね、切なさってね、快感なんだって。人にとって」
大音量の音楽の中でも聞こえるように大きな声で親友へ告げた。そのとき歌われていた懐かしい、毎年聴く夏のラブソングの言葉は去年とまた違う意味で心に響く。
同じ曲なのになんでだろう。
毎年、聴こえ方も想いも違うのは、なんでだろう。
それでもいつも涙が零れるのは、なんでだろう。
この曲のあいだだけは泣くことが許されるような気がしていた。
1年で一度だけ、昔の恋を思い出して泣いていいみたいな、『HANABI』を聴いている時間はわたしたちにとってそんな時間。
雨が止んで吹いた夏の夜風がもうすぐこの季節が終わることを私たちに告げた。その風でなびいた自分の前髪が、自分の涙を拭く。
涙のあとはみんなで顔を見合わせて笑う。
’’大人になっていくことの意味なんてわからないまま’’だけど、’’残ったものは残したもので偶然なんかじゃない’’と『fairyland』に歌われているから。
「みんなとこうやって過ごす時間が、いつまでも続いていきますように」
何よりそのことを、きなこ星クッキーに願いをかけた夜。
《わたしのきなこ星クッキー》
【材料】
富澤商店のピーナッツきな粉クリーム、バター、ココナッツオイル、薄力粉、砂糖
歌手、DJ、SamanthaThavasaグループブランドレップ。
1989年12月6日生まれAB型。学生時代より読者モデル、リポーター、バックダンサーなど多岐に渡って活動。
SNSや雑誌を通してファッション、ライフスタイルを発信中。
【公式instagram】?? https://instagram.com/misato_ichiki/