【鈴木寛の「2020年への篤行録」】第37回 ガラパゴス化から脱却できない日本のエリート
7月下旬、UCサンディエゴ(カリフォルニア大学サンディエゴ校)がライフサイエンスの研究企画連携拠点を、日本橋に開設しました。同校にとっては初の海外拠点。アメリカの「研究投資力」と日本の大学の「基礎研究力」日本の製薬業界の「開発力」が、まさに太平洋を超えて医療イノベーションを推進する取り組みをスタートします。今回の拠点設置を機に、がんや難病の治療、再生医療の進化につなげていきたいと思います。
この間、何度か渡米し、両者の取り組みをコーディネーションするべく活動してまいりましたが、その一方で、この役回りは現職の国会議員だった時には難しかったと痛感します。なぜならば、国会議員は、海外に行って予定外のスケジュールをいれていくということがほとんど困難だからです。国境を越えたイノベーションは、産学官の間に立って、誰かがコーディネートせねばなりません。
政策への見識、国内外の人脈を持ち合わせた人材、たとえば政治家ですが、国境を超えたプロジェクトになると、海外にも足を運び、ある程度の時間をかけて人脈・知見を広げる必要があります。ところが、閣僚クラスは、国会会期中はそう何日も不在にできません。政府の役職を兼務していない国会議員であっても、参議院では、会期中に7日以内の渡航をするには議長の許可を得なければならず、7日を超えると議院運営委員会の了解を取るという物々しさです。国会対応を最優先しなければならない高級官僚も最近は一週間を超えるような出張、ましてや長期出張は難しいでしょう。
政治家が外交で渡航することを「外遊」といいますが、いい意味で「遊び」がなければ、外遊先での深い人脈形成につながらないのもまた現実です。私が政治家を辞めた後、医療イノベーションに関する訪米に関して言えば、最初のサンディエゴは10日間滞在しました。二回目からは、数日間のこともあれば、一週間のこともありますが、いつも、Aさんという有力者との懇談から、Bさんという別の有力者の存在を教わり、「今からBさんに電話するから、明日会いにいきなさい」と進められるわけです。スケジュールは、アドリブで時事刻々変わります。いま思うと、あの時、「もう日本に帰ってしまうので、お会いできません」と言って断ってしまっていたら、今のネットワークは作れませんでした。サンディエゴで積み重ねた人脈の糸のどれか一本でも欠けていれば、UCサンディエゴの日本橋進出はなかったと言っても過言ではありません。これも、一定日数以上、現地に滞在できたことによります。
イノベーションがグローバル化する潮流にあって、政策当事者の政治家、官僚は真の意味での「外遊」がしづらい状況です。最近、政治家の二重国籍が問題になりましたが、法的に多重国籍を認められない以上、政治・行政のトップリーダーのグローバル対応を意識しておく必要があります。そうした問題を指摘すべき大手マスコミのジャーナリストも数えるほど。日本のエリートたちのガラパゴス化は早期に見直すべきでしょう。
(文部科学大臣補佐官、東大・慶応大教授)